銀行員「お受けできません」〈資産8,000万円〉父の“完璧な”遺言書がアダに…52歳長男が銀行窓口で言葉を失ったワケ【弁護士が解説】

銀行員「お受けできません」〈資産8,000万円〉父の“完璧な”遺言書がアダに…52歳長男が銀行窓口で言葉を失ったワケ【弁護士が解説】

几帳面だった父が遺した公正証書遺言には、「全財産を妻に相続させる」と記されていました。認知症の母の生活費や施設費用はこれで安心と安堵した長男のサトシさん(仮名・52歳)でしたが、遺産の手続きを終えた直後、思わぬ落とし穴に直面します。“完璧な”遺言書が引き起こした悲劇とは。弁護士法人山村法律事務所の代表弁護士・山村暢彦氏が、家族全体のリスクを見据えた相続対策について解説します。

これなら安心…〈資産8,000万円〉几帳面な父が遺した“完璧な”遺言書

都内の企業で働くサトシさん(仮名・52歳)は、半年前に父親(享年85)を亡くしました。元教員だった父は几帳面な性格で、退職金などを堅実に運用し、預貯金約4,500万円と評価額3,500万円の自宅、合わせて8,000万円ほどの資産を保有していました。

「俺に何かあっても、母さんがお金で困らないように手続きはしてあるからな」

父は生前、サトシさんにそう語っていました。その言葉通り、実家から見つかったのは公証役場で作成された不備のない公正証書遺言でした。そこには、「全財産を妻であるヨシコに相続させる」という内容とともに、手続きを行う遺言執行者としてサトシさんが指定されていました。

母親のヨシコさん(仮名・80歳)は数年前から認知症が進行しており、最近はサトシさんの顔がわからないこともありました。しかし、この遺言書があったおかげで、遺産分割協議のために母の署名や実印をもらう必要はなく、父から母への預金の名義変更などはスムーズに進みました。

「親父らしい完璧な準備だ。これで母さんの介護費用も心配ない」と、サトシさんは安堵していました。

「お振り込みはお受けできません」52歳長男が銀行で直面した〈想定外の事態〉

父の預金を母の口座へ移し終え、サトシさんは次の準備に取りかかりました。母が入居する予定の有料老人ホームへ、一時金として800万円を振り込むため、銀行の窓口へ向かったのです。

しかし、通帳と振込用紙を提出したサトシさんに、窓口の担当者は申し訳なさそうに告げました。

「申し訳ございません。口座の名義人であるヨシコ様ご本人の意思確認ができませんので、このような高額なお振り込みはお受けできません」

サトシさんは言葉を失いました。預金が母の名義になった瞬間、それは「父の遺産」から「認知症である母の財産」へと変わります。本人に判断能力がない以上、たとえ長男であっても勝手に引き出したり送金したりすることはできないのです。

「母の施設入居のための大切なお金なんです。どうにかなりませんか」

サトシさんは食い下がりましたが、銀行側のルール上、対応は変わりません。母の生活を守るはずのお金が、指一本触れることのできない「凍結資産」になってしまったのです。

提供元

あなたにおすすめ