
病院の待合室で顔なじみと談笑する高齢者たち。その通院は「治療のためだけ」ではないケースも少なくありません。独居高齢者が増えるなか、医療機関の待合室は、地域の居場所としての役割も担うようになっています。見ていきましょう。
待合室で繰り広げられる「いつもの光景」
小さな賃貸アパートの一室。壁掛けのカレンダーには、「整形外科」「眼科」「皮膚科」「接骨院」「編み物教室」……通院や習い事など、予定がある日に〇印と、その下にメモが書き込まれています。
坂井久仁子さん(仮名・81歳)は、夫を13年前に亡くし、現在は一人暮らし。子どもは別の県で家庭を築き、頻繁に会うことはできません。
「さて、行きましょうか――」
その日向かったのは、地元の整形外科。昭和の趣があるこじんまりとした病院で、午前9時過ぎに待合室に入ると、すでに多くの患者が集まっていました。リハビリや診察を待つ間、あちこちで小さな会話の輪ができています。
「久仁子さん、身体の調子どう?」
「今日はまた混んでるわねぇ」
久仁子さんは“お仲間”の隣に腰を下ろし、嬉しそうに談笑を始めます。家庭の愚痴やテレビの話題、体のちょっとした不調まで話は尽きません。
診察室に入ると数分間の問診を受け、リハビリ室で電気治療を受けながらスタッフと言葉を交わす。この場所は、久仁子さんにとって体の不調を治す場であると同時に、自分の存在を認識してもらえる空間でもあります。
「1割だから安い」とも言えない…財布を痛めて通うワケ
久仁子さんは「変形性膝関節症」と診断されており、加齢による膝の痛みや軟骨のすり減り自体は確かな事実です。
医師からは、症状が落ち着いているため頻繁な通院が必ずしも必要とは言われていませんでした。しかし久仁子さんは、電気治療の予約をいれて、週に1~2回足を運んでいるといいます。
75歳以上の多くは後期高齢者医療制度の対象となり、窓口負担は原則1割(一定以上の所得者は2割または3割)です。しかし、月14万円ほどの年金(遺族年金含む)で食費や光熱費を賄いながら暮らす久仁子さんにとって、いくら1割負担とはいえ、再診料やリハビリ費用、薬代などが重なれば毎月の医療費は決して軽視できる額ではありません。
ではなぜ、財布を痛めてまで足繁く通うのでしょうか。その背景には、お金の計算だけでは測れない高齢者の孤立問題が存在します。
厚生労働省の「国民生活基礎調査(令和7年)」によると、65歳以上の高齢者のうち「通院者」の割合は全体の約7割にのぼり、75歳以上になるとその割合はさらに高まっています。高齢者にとって病院通いが日常の一部となっていることが伺えます。
また、内閣府の「高齢者の生活環境に関する調査(令和5年)」によると、一人暮らしの高齢者のうち「会話の頻度が2~3日に1回以下」と答えた人が約3割にのぼります。日々の生活の中で誰とも言葉を交わさない日が珍しくないのが、現代の独居高齢者が置かれている現実です。
