怪しい客でも「乗車拒否は簡単にはできない」タクシー運転手の苦悩。密室で豹変する酔客や乗り逃げ対策の“正解”は

怪しい客でも「乗車拒否は簡単にはできない」タクシー運転手の苦悩。密室で豹変する酔客や乗り逃げ対策の“正解”は

◆凡事徹底こそが安全の近道

ドライバーは警察官でも警備員でもない。安易に介入すれば、自らの身を危険にさらすだけでなく、状況を誤認して無関係な乗客とのトラブルを招く可能性もある。だからこそ、現場で培われてきたのは、「観察し、記録し、必要に応じて通報する」という、一見地味だが実効性のある対応である。

ドライブレコーダーの映像は、自身を守る重要な証拠となる。異変を感じた際には、無線やチャットで営業所や仲間に状況を伝え、必要であれば乗客に気づかれないよう、信号待ちや降車後のわずかな時間を利用して110番通報を行うこともある。また、その場で見聞きした内容をできる限り正確に記憶し、後から警察へ説明できるよう備えておくことも重要な仕事だ。

冒頭の動画のあの数十秒の車内で、ドライバーが何を見て、何を考えていたのかは映像だけでは分からない。声をかけなかったことが判断の放棄だったのか、それとも乗客を刺激しないための冷静な判断だったのかを、第三者が断定することもできない。

タクシーの運転席は、乗客の人生の断片が否応なく流れ込んでくる場所である。その多くは表に語られることなく過ぎていくが、いざという時に備え、目を配り、状況を記憶し、冷静な判断を積み重ねている。今回の動画が多くの人に違和感を与えたのは、それだけ「もし事件だったら」という不安を抱かせる内容だったからだろう。そして同時に、限られた情報しか持たないドライバーが、どこまで介入すべきなのかという難しい課題を改めて問いかけている。

<取材・文/二階堂運人>

【二階堂運人】
物流ライター。ライター業の傍らタクシードライバーとして東京23区内を走り回り、さまざまな人との出会いの中から、世の中の動向や世間のつぶやきなど情報収集し発信する。また、最大手宅配会社に長年宅配ドライバーとして勤務した経験とネットワークを活かし、大手経済誌のWEB版などで宅配関連の記事も執筆する。タクシー・宅配業界の現場視点から、「物」・「人」・「運ぶ」・「届ける」をそれぞれハード(荷物・人)だけではなく、ソフト(心と気持ち)の面を中心に記事を執筆中。ブログ「二階堂運人ホームページ」
配信元: 日刊SPA!

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