「私は団地に住みたいの」…年金月13万円・72歳女性、優しい息子の〈同居の申し出〉を断った理由【CFPの助言】

「私は団地に住みたいの」…年金月13万円・72歳女性、優しい息子の〈同居の申し出〉を断った理由【CFPの助言】

差し伸べられた手を掴まなかった理由

息子からの提案に迷ったのには、理由がありました。

「いくら関係性が良くても、息子夫婦には息子夫婦の暮らしがあります。気を遣わせたくないし、私も遠慮しながら生活したくありません」

生活時間の違い、家事の分担、孫の受験、食事の好み……。最初はうまくいっても、小さな気遣いが積み重なれば、お互いに負担になることがあります。同居には生活費を抑えられるメリットがある一方で、家族だからこそ距離感が難しくなることも少なくありません。

「でも、このままでは遅かれ早かれ貯金が尽きて、結局息子夫婦に迷惑をかけることになるかもしれない。だから、行動しなきゃと思ったんです」

早苗さんは、支出のネックになっている家賃をどうにかしたいと考えました。しかし、高齢者の賃貸探しは保証人や孤独死リスクの壁があると知り、市役所に足を運んで相談することに。すると、所得などの条件を満たしていたため、公営住宅へ申し込めることが分かりました。

早苗さんはさっそく抽選に応募し、築年数は古いものの、家賃3万2,000円の団地へ入居が決まったのです。

転居後の毎月の支出は約12万円まで減少しました。年金収入だけで生活費をほぼ賄えるようになり、貯蓄を取り崩すペースも大きく改善。団地では自然と顔見知りも増え、地域とのつながりもできたといいます。

「古くても十分。窓から緑が見えるし、近所にも同年代の人がいて安心です。この先、困ったときは息子に頼らざるを得ないこともあるかもしれません。でも、元気なうちは自分で暮らしたいんです」

【専門家の視点】「同居するか」ではなく「家計が続くか」で考える

総務省「令和5年住宅・土地統計調査」によると、65歳以上の世帯員がいる主世帯は2,375万世帯に上り、そのうち高齢単身世帯は761万7,000世帯、32.1%を占めています。高齢者のいる世帯のうち、3世帯に1世帯近くが一人暮らしという計算で、割合は過去最高となりました。高齢になったからといって、必ずしも家族と同居する時代ではなくなっているのです。

老後の住まい選びにおいて大切なのは、家賃が高いから同居するという消極的な理由ではなく、今の収入で無理なく暮らし続けられるかという視点です。

子どもから同居を提案されると、「断るのは申し訳ない」と感じる人も少なくありません。しかし、同居は家賃負担を軽減できる一方で、生活リズムや価値観の違いによるストレスが生じることもあります。

早苗さんは息子の申し出を断りましたが、それは家族を拒絶したわけではありません。「困ったら助けてもらう。でも、元気なうちは自分で暮らしたい」。その思いを実現するために選んだのが、公営住宅への住み替えでした。高齢で民間では住み替えが容易ではない場合にも、公営住宅は有力な選択肢になります。

ただし、公営住宅は、自治体ごとに収入基準などの入居条件が設けられています。応募者が多い地域では抽選となることもありますが、条件に当てはまるなら検討する価値はあります。また、公営住宅以外にも、サービス付き高齢者向け住宅や自治体の住まい相談窓口などがあります。家計や住まいに不安を感じたら、早めに自治体へ相談してみるとよいでしょう。

老後の住まい選びに正解はありません。同居も、公営住宅への住み替えも、それぞれにメリット・デメリットがあります。大切なのは、自分が安心して暮らし続けられる住まいを選ぶことです。収入や支出、健康状態、家族との距離感を踏まえ、自分らしい暮らし方を考えていきましょう。

 

新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP®

あなたにおすすめ