医師という職業上、お盆休みでの帰省にはほとんど縁がなく、個人的にはあまり実感がないのですが、毎日のように流れてくる映像や渋滞情報を見ているだけで、なんだかこちらまで疲れてきそうになります。

ただし、体調を崩す原因は、単に「人が多い」「移動時間が長い」だけではありません。前半は新幹線や電車でついやってしまう「寝不足」と「スマホ動画」、後半は運転時の「水分控え」に潜む落とし穴を紹介します。
◆寝不足で乗ると、揺れに弱くなる?
帰省前日は、仕事を片づけ、夜遅くまで荷造りをして、翌朝は早起き。「どうせ新幹線で寝るから」と睡眠を削りがちですが、実はこの埋め合わせ、あまり賢明でないかもしれません。寝不足のまま揺れる乗り物に乗ると、酔いや疲れが強くなることがあるからです。アメリカのブランダイス大学の研究チームが、睡眠不足と「乗り物の揺れ」が体に与える影響を調べた面白い研究を紹介します。参加者に「十分な睡眠をとった状態」と「睡眠不足の状態(1日4時間睡眠を2日間)」の両方を経験させ、その後、乗り物酔いを起こしやすい横揺れの中で、吐き気や反応速度などを比べました。
結果は興味深く、睡眠不足の状態で揺れにさらされると、十分眠った時に比べて、頭痛や吐き気などの「乗り物酔い」の重症度が上昇し、注意力も低下したのです。さらに、人間には本来揺れに慣れる能力があるのですが、「乗り物酔いへの適応力(慣れ)」までもが、寝不足によって鈍ってしまうことも分かりました。
つまり、「寝不足のまま電車や新幹線に乗る」ことは、乗り物酔いや体調不良のリスクを上げかねないわけです。「到着したら妙にぐったりする」ことが多い人は、単なる移動疲れだけでなく、もしかしたら慢性的な睡眠不足や疲労が背景にあるかも?
◆車内で動画を30分見続けると?

最近、台湾の研究チームが、台湾を走るMRT(日本でいうJRや地下鉄)でスマホを使用して動画を視聴した際の影響を調べた研究があります。男女40人に、15分間と30分間、それぞれ「座った状態」と「立った状態」でスマホの動画を見てもらい、「疲労度」や「乗り物酔い」のレベルを測定しました。
結果、座位、立位関わらず、視聴時間が30分になると、15分の時と比べて、吐き気、疲労、めまい、頭痛などの症状が顕著になり、乗り物酔いの症状も急に悪化することが分かりました。揺れる車内では、体の三半規管は「揺れ」を感じているのに、目は手元の固定された小さな画面を見つめ続けています。この「視覚と体の感覚の強烈なズレ」によって脳が混乱し、めまいや吐き気といった症状を引き起こすと考えられています。
日本の新幹線は優秀で揺れもほぼないため、この研究がそのまま当てはまるわけではないですが、それでも車内での長時間の視聴は控えた方がよさそうですね。特にこの研究では「立ったまま30分」の動画視聴で症状が一番強く出たため、満員車内で立ったまま見続けるのは要注意です。

