でも、どうしてそういう風潮があるの? 『赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。』の著者・境 治さんに聞いてみた。
「以前の地縁・血縁のコミュニティが失われ、赤ちゃんに接する機会が少ないのが大きいと思います。赤ちゃんが泣き止まないのは不可抗力だし、ハッキリ言ってどうしようもない。それに対して文句を言う人は、自分にそういう体験がないから。また、『子どもは自分の手』でという考えも、大家族で支えてくれる人が身近にいた時代の考え方でしょう。今は、核家族化が進み、そういうコミュニティが近くにないことがほとんど。母親ひとりが子育ての負担を背負っていることを理解していないのです」(境さん 以下同)
また、日本では「良妻賢母」という言葉があるように、ママは子育てがきちんとできている姿が理想とされている。
「日本のCMで描かれるママの姿は、メイクもして洋服を着て笑顔で…というものが多いですよね。一方、イギリスのフィアットの車のCMで描かれたママの姿は、髪はボサボサで部屋はぐちゃぐちゃ。子育ての大変さをリアルに表していて、いい意味で肩の力を抜いてくれます。できないものはできなくていいのだし、良妻賢母である必要はまったくありません」
とはいえ、育児を取り巻く環境をいきなりガラリと変えるのは難しい。声高に主張するぞと意気込みすぎず、自然に取り組めることはないものだろうか。
「赤ちゃんを通じていろんな人と関わるのがひとつの手だと思います。たとえば、『赤ちゃん先生プロジェクト』。これは、赤ちゃんを連れたママが小中学校や大学、高齢者施設を訪問し、そこの人たちに赤ちゃんに触れてもらうというもの。ママは出産や育児の道のりについて話し、育児の実体験を伝えます」
赤ちゃんと接した小学生は、最初は恐る恐るで、赤ちゃんが泣き出すと慌てたりするものの、次第に触れ合い方に慣れてくるそうだ。こういった体験を通じて、赤ちゃんを育てる大変さを肌で感じてもらうという。大学生などは実際にベビーカーを押したり、赤ちゃんを抱っこしたりして、階段などでどれだけ大変な思いをしているかを知る機会になるという。
また、そもそも育児中はママと社会が切り離されがちになる。こうしたイベントへの参加は、ママたちのモチベーションを促し、社会との関わるが自信につながるのだ。
赤ちゃんは24時間かわいいわけではないし、ママも完璧に育児をこなす必要はない。赤ちゃんを潤滑油にさまざまな人をつなぎ、その大変さをみんなで共有することが大切なのかもしれない。
(南澤悠佳/ノオト)