●お母さんたちには学校のサポーターでいて欲しい!
‘07年から3年に渡り、杉並区の小学校で教員生活を過ごした乙武氏。10年以上に渡って、教育に関わってきた乙武氏だからこそ、見えてきたものがある。
「教員として現場に立ち、教育委員として行政に関ってきました。2つの立場を経験したからこそ見えてきたのは、あれもこれもと詰め込みすぎで、歪が生じている学校の教育カリキュラム。英語、環境、キャリア、IT…時代の変化とともに様々な教育カリキュラムが盛り込まれ、必要性が叫ばれてきたわけですが、今の学校には、それをこなせるだけの時間的余裕、予算、人為的資源が与えられていない。目の前にあるコップの数と量は変わらないのに、そこに注ぎ込まれる水の量が増えたらいったいどうなるのか? 小学生が考えてもわかる話です。それが今の教育現場。今にもコップの水があふれ出しそうな状態にあるので、先生方はとても大変な思いをしています。保護者の方には、どうかそこを理解して頂きたいと思います」(乙武氏 以下同)
モンスターペアレンツなる言葉が生まれ、子どもにトラブルが発生した際、「学校側の対応は?」「家庭でのしつけは?」とお互いが責任を押し付け合う風潮も見られるが、そこにも大きな不安を感じている乙武氏。
「学校と家庭…お互いが疑心暗鬼になっていて、いい関係が築けていないんですね。本来、学校と家庭は、目の前にいる子どもたちを育てていく上でのパートナーであるはずです。この問題は、家庭に置き換えるとわかりやすくて、例えば、前者は父と母がいい信頼関係で結ばれていて、子どもをどのように育てていくか…意見の食い違いはあれど建設的な話し合いができる家庭、後者はいつも夫婦がいがみ合っていて、子どもたちの前でお互いの悪口ばかり言い合っている家庭だとします。どちらが望ましいかと聞けば、たいていの親御さんは前者と答えるはず。学校と家庭の関係も同じことなんですよ。お互い意見が食い違うかもしれないけど、どちらも“目の前にいる子どもをよりよく育てていく”ことが目標。そう考えて頂けると、自然と共に歩んでいけるのかなと思います」
“モンスターペアレンツ”などという報道にあおられて、教員の腰が引けてしまうのが一番良くないと語る。
「メディアでは当たり前のように取り上げられていますが、”クレーマー”などと呼ばれる親御さんはごく一部。ほとんどの保護者の方は、お互いが1歩歩み寄るだけでしっかりとした信頼関係が築けます。保護者会や個人面談などの場は、保護者と教師が互いに意見を交換し、その子に関して、“自分が得られない情報が得られる大切な機会”なんです。これを利用しない手はないですよね」
もちろん、保護者が学校に対して疑問に思うことがあれば、素直にその思いをぶつけていいと乙武氏は語る。本音でディスカッションし、“子どもたちにとって何がベストなのか?”学校と家庭が手を取り合って考えていける関係性を育めば、きっと子どもたちの将来は明るいはずだ。
(撮影/島田香 取材・文/蓮池由美子)