乙武洋匡が熱血指導!子の力は“正解主義”では育たない

第1回 乙武洋匡がエール!頑張っているママたちへ
小学校教員を務めた経験もある乙武洋匡氏が、今の日本の教育を一刀両断! 子どもたちに本当に必要な“真の教育”が何かを問う!

●社会に出たら、“正解”が用意されていることはほとんどない

自身も3児の父親で、子育て真っ只なかにいる乙武氏。3年間の教員生活を経て、学校がどういうことを教え、どういうことを教えてくれないのかを把握できたと語る。乙武氏の家庭では、“学校では教えてくれないこと”を補う子育てを実践している。

「教員生活のなかで、私が6年生の社会の授業を受け持っていたときの話ですが、聖徳太子が作った“十七条の憲法”を教えたんですね。基礎的な知識を教えた後に、教科書を閉じて、“じゃあ今から、みんなで聖徳太子になってみよう! 世のなかを良くするための十八条目を考えてごらん”と投げかけたんです。何人かはユニークな答えを書いてくれましたが、なんとクラスの半分以上が白紙。でも私は、子どもたちを責める気にはなれませんでした」(乙武氏 以下同)

こんな子どもたちの状況も、今の日本の学校教育では、いたしかたがないことと熱く語る。

「私たちがたどってきた勉強は、授業で“これが正解だよ!”と教えられ、“正解を暗記しなさい!”と伝えられる。そして学校のテストは、“どれだけ正しく記憶することができたのか”を試す、いわゆる記憶力テストなわけです。試験のなかで、“あなたはこれについてどう思いますか?”と自分の考えを書かせるような問題などほとんどない。ですから、いざ意見を問われる場面になって、子どもたちが何も答えられないのは当然のことだと思うんですよ」

学校教育の今を語る乙武洋匡

知識をただ暗記する…はたしてそれは、社会で役立つ力なのだろうか? 乙武氏は、「社会や人間関係において、“正解”を用意されることなんて、まずありませんよね」と笑顔で語る。

「さまざまな壁にぶち当たり、得るものもあれば失うものもある…ほとんどのことがトレードオフな状態にあって、人生なんて、自分なりにどう選択していくのかの連続ですよね。それなのに、学校の勉強は少しもそんな訓練を積んでくれない。ですから、せめて家庭では、子どもたち自身が、自分の頭で考える機会を作ろうと日々心がけています」

乙武家では、愛する子どもたちに、時に意地悪な質問を投げかけるという。

「今、長男が小学2年生なんですね。彼が小学校に上がるときにこう聞きました。“学校は行く時間が決まってるよね? 遅れてもいいのかな?”そう聞くと、彼は“時間通りに行かなくちゃダメだよ”と答える。“道で困った人がいたらどうする?”と聞くと、彼は“助ける!”と答えます。そこで、僕はさらに、“じゃあもしも、君が学校に行く途中、道で困っている人がいたらどうする?”と聞いてみます。助けたら学校に遅れる、でも時間通りに学校に着きたいなら、その人を見捨てなければならない…さてどうするかと。ちょっと意地悪ですけど、わが家ではこういう機会を大切にしています。その答えがどちらであるかは問いません。価値観をどう導くかではなく、2つの価値観が相反する場面で、“君はどんな選択をするのか”それを考えることが大切だと思うのです」

これこそが、学校教育では行われない、何よりも重要な勉強なのだと乙武氏は言う。

「親や教師は、すべてに正解があり、それを教えていくことが勉強なのだと錯覚しがちですよね。でも私は、正解が用意されないところで、“自分たちが学んだもののなかから答えを導き出していく力”が、何より大切だと考えます」

日々の子育てのなかで、子の考える力を意識して促せば、やがては子の将来に、社会に出たときの生きる力へとつながるのかもしれない。

(撮影/島田香 取材・文/蓮池由美子)

お話をうかがった人

乙武洋匡
乙武洋匡
1976年、東京都出身。大学在学中に上梓した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。スポーツライターとして活動した後、2005年から新宿区教育委員会「子どもの生き方パートナー」、2007年から杉並区立杉並第四小学校教諭、2013年から2015年まで、東京都教育委員を務める。地域と一体化した子育てを目指す「まちの保育園」運営にも参加。3児の父。
1976年、東京都出身。大学在学中に上梓した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。スポーツライターとして活動した後、2005年から新宿区教育委員会「子どもの生き方パートナー」、2007年から杉並区立杉並第四小学校教諭、2013年から2015年まで、東京都教育委員を務める。地域と一体化した子育てを目指す「まちの保育園」運営にも参加。3児の父。