親権停止の制度が新たに誕生したことはご存じでしょうか?
子供の健やかな成長を最も身近でサポートするべき家庭で起こる、児童虐待―。
そんな児童虐待から子供を守るため2012年に新設されたのが、従来の「親権制限制度」の見直しから誕生した「親権停止制度」です。
この制度による親権停止の決定は、施行から5年目となる2016年に過去最多の83件を記録し、2017年にも65件と決して少なくはない数字を残しています。
(参考:親権制限事件及び児童福祉法28条事件の概況)
そこで今回は、
- 親権停止ってどんな制度?
- 親権停止が行われる具体的なケース
- 親権が停止されるとどうなるの?
- 親権停止を求めるための手続き
など、これまでの親権制限制度のメインであった「親権喪失」との違いも含めて詳しくご紹介していきます。
「今は元配偶者が子供の親権者になっているけれど、最近育児を放棄しているのではないかと心配」
「子供がネグレクトされているなら今すぐにでも自分が引き取って育てたい」
というみなさんにとって、この記事が子供の幸せな暮らしを守るためのお役に立てば幸いです。
1、親権停止とは?
2012年4月から施行されている親権停止制度は、裁判所の審判によって、最長2年間まで親権を停止する=親権者と子供を一時的に引き離すことができる制度です。
現在日本では児童相談所に寄せられる児童虐待に関する相談件数が年々増加の一途を辿っており、令和元年度には過去最高の193,780件を記録しました。
(参考:https://www.mhlw.go.jp/content/000696156.pdf)
しかし、従来の親権制限制度では子供を守るための決め手となる手段が「親権喪失」しかなく、これは親権を半永久的に奪うものであったため、再び親子関係を取り戻そうと思ってもその修復が難しくなる=長い目で見たときに本当に子供の利益になるのか?という点が疑問視されていました。
児童相談所などが申し立てを行う際にも、「子供を虐待から守りたい、でも子供を一生親と引き離すことになってしまうのは…」というジレンマから制度の活用を躊躇するケースが目立ち、対応に遅れが出た結果、さらなる事態の悪化を招いてしまったという事例も決して少なくはなかったのです。
今回ご紹介する「親権停止」は、そういった背景から生まれた制度であることもあり、親子関係を断絶するのではなく、あくまでも一定の期間を区切って親権者に子供への接し方の改善を求め、その間に今後親子関係を修復することができるかどうかの判断を行うというのが主な目的になります。
2、親権停止の原因
裁判所が親権停止の申し立てを認めるケースには、次のようなものがあります。
- 不適当な親権の行使により子の利益が害されているとき
- 親権者による親権の行使が困難なとき
このうち1つ目に挙げた「不適当な親権の行使」をもう少し掘り下げると、たとえば以下のような状況が考えられるでしょう。
- 親権者が「しつけ」と称して子供に暴力を振るっている
- 子供に食べ物を与えない
- 子供を病院に連れて行かない(医療ネグレクト)
- 「生まれてこなければよかったのに」などの暴言で精神的に追い詰める
- 性的虐待
実際、2017年に裁判所が親権停止を決定した事例のうち、親権の濫用による虐待がその原因として認められた割合は全体の82.3%にものぼっています。
(参考:http://www.courts.go.jp/vcms_lf/20180420zigyakugaikyou_h29.pdf)
一方で虐待以外の原因も17.7%は存在し、最高裁判所が公開している資料によれば、この中には「親権者の所在不明等が含まれる」とのことなので、こちらは最初に挙げたケースの2つ目「親権者による親権の行使が困難なとき」のほうに該当するでしょう。
配信: LEGAL MALL