SDGsと防災教育⑥ ~ 質の高い教育って、何だろう? その①

SDGsと防災教育⑥ ~ 質の高い教育って、何だろう? その①

防災教育の性格:主体的で対話的な学び

新しい学習指導要領は「主体的・対話的で深い学び」を通して「知識・技能」「理解力・判断力・表現力」を身に着けること、その学びのバックボーンとして「学びに向かう力・人間性等」が大切であることを指摘しています。つまり、知識は、学校で学ぶべきすべてではなく一部だと考えられているのです。
防災教育は「知識・技能」を伝える教育でしょうか。もちろん、「知識・技能」は大切ですが、知識の押し付けだけの防災教育は面白くないし、実際の災害では役に立たない危険性が高いでしょう。「理解力・判断力・表現力」が伴っていないからです。
私はよく、こんなワークショップをします。

  1. 参加者は、明日大きな災害が起こると仮定して、今日のうちにやっておきたいことを10個考えて書き出します。この段階では相談はせず、一人で考えます。
  2. その後、グループで話し合って10の行動を選び出し、1番から10番まで、順番を決めます。
  3. 複数のグループがあれば、発表して共有します。
  4. ここでコーディネーター(私)が、自分たちで考えた10の行動をすでに全部行っているかどうか問いかけます。実は、全部実施している人はまずいません。つまり、知識はあるけれども行動にはつながっていないのです。「それじゃ、だめだろう」と指摘します。
  5. 叱られて終わるワークショップは面白くないですね。最後に、この1週間で自分にできる行動に〇をつけてもらいます。目標を持って、このワークショップを終えます。

このワークショップで明らかになるのは、防災の知識はあるものの何ら行動を起こしていない人がたくさんいるという事実です。防災の知識はあるが何もしない人と防災の知識が無くて何もできない人。何もしていないという点では、同じですね。これが市民の防災の実態です。そんなところに、知識を高めるための講演会をいくら開催しても、防災マニアの知識が増えるだけで、市民社会の防災力の向上に直結する防災教育にはなりません。

防災教育で最も必要とされているのは、状況を理解して、取るべき行動を考え、相談し、判断し、それを行動に移す力です。もちろんその過程で知識を総動員します。この力は災害前の備えでも、災害発生後の対応でも私たちに安全と安心をもたらします。そんな市民一人ひとりの行動の積み重ねが、社会の防災力の向上につながります。防災教育では近年、この力を育てる(少なくともこの力の大切さに気付かせる)様々なワークショップが開発されています。筆者もテッパンのワークショップをいくつか持っていて、講演会に取り入れています。
防災教育は、地域の個性を反映し、高齢者や子ども、障害者、外国人も含めたすべての住民を包摂します。学習者の理解力、思考力、判断力、行動力、コミュニケーション力などを高めます。その意味において、優れた防災教育は「包摂的で公平な質の高い教育」だと言えます。教育の質を高める「教育改革」の震源になり得るのです。

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moshimo ストック
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私たち moshimo ストックは「もしも」のための防災情報メディア。 最近、地震や台風がよく起きるようになって心配。 防災をしようと調べてみたものの、何から始めればいいの…? 私たちも始めは知ることがたくさんあって、防災ってちょっと難しいな…と思いました。 でも、ちょっと待って下さい! もし何の準備もなく災害にあってしまったら大変です。 防災は少しずつでも大丈夫、「もしも」のための準備を始めませんか?
私たち moshimo ストックは「もしも」のための防災情報メディア。 最近、地震や台風がよく起きるようになって心配。 防災をしようと調べてみたものの、何から始めればいいの…? 私たちも始めは知ることがたくさんあって、防災ってちょっと難しいな…と思いました。 でも、ちょっと待って下さい! もし何の準備もなく災害にあってしまったら大変です。 防災は少しずつでも大丈夫、「もしも」のための準備を始めませんか?