5、びまん性胸膜肥厚と石綿健康被害救済法に基づく給付
アスベストの職業性ばく露によりびまん性胸膜肥厚に罹った場合、その医療費等は、普通なら労災保険により補償されるはずです。しかし実際には、請求時効の兼ね合いで保険金を支払ってもらえない場合も多く見られます。他には、自宅に持ち帰った作業服や道具に付着したアスベストが原因で、労災保険の加入者でない家族が発症する場合も考えられます。
上記のような、労災保険の給付請求権が時効により消滅してしまった場合(特別遺族給付金)には労働局や労働基準監督署に、その他職業性ばく露とはいえない場合(救済給付)は環境再生保全機構、各地の保健所や地方環境事務所に申請書を出すことで、救済金がもらえる可能性があります。
▼石綿健康被害救済法に基づく給付の基本
給付対象:医療費や遺族への給付(労災補償でカバーできない部分)
給付の条件:「著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚」であること
(1)給付を受ける条件
石綿健康被害救済法に基づく給付は、被害者が提出した診断書を含む書類に基づき、環境大臣や中央環境審議会で「指定疾病」だと判定された時に行われます。びまん性胸膜肥厚で申請する場合は、下記基準を満たす医師の診断書が必要です。
大量の石綿ばく露(石綿ばく露への従事期間が概ね3年以上)あること
臓側胸膜に一定以上肥厚の広がりがあること
著しい呼吸機能障害があること
他の疾患(感染症・膠原病・胸部手術後の後遺症等)との鑑別ができること
(2)労災保険等との関係
救済法に基づくアスベスト被害者への給付は労災に代わるといっても、まったく同額ではありません。例えば、労災補償の休業・傷病・障害・介護に関する給付であれば、救済法ではこれらに代わるものとして療養手当(月額一律103,870円)を支給すると定められています。
また、救済法による給付申請と前後して同一の目的で労災補償が下りた場合には、給付額の調整・控除があります(法第25条・第26条)。
(3)給付の内容
給付の内容は、以下の表のとおりです。労災補償に比べてゆとりがあるものの、やはり請求時効はある点に注意しましょう。
給付の種類
給付額
請求時効
医療費
医療費の自己負担額
医療費支払い(申請前の分については申請日)の翌日から2年以内
療養手当
介護費用等として、療養開始日以降、毎月103,780円
請求期限なし
未支給の医療費
死亡後に残った医療費の請求等、本人に支給すべき分
医療費支払い(申請前の分については申請日)の翌日から2年以内
葬祭料
葬祭費用として199,000円
2032年(令和14年)3月27日
特別遺族弔慰金
認定申請前に死亡した場合に一律280万円
死亡翌日から25年以内※
特別葬祭料(同上)
認定申請前に死亡した場合に一律199,000万円
死亡翌日から25年以内※
救済給付調整金(同上)
医療費と療養手当の合計額が280万円に満たない時に、その差額
死亡翌日から2年以内
※令和4年6月17日の法改正で延長されました。
※病状が進んで中皮腫または肺がんで死亡した場合、2033年(令和15年)12月1日が請求期限となります。
6、びまん性胸膜肥厚と国の賠償金制度(工場型)
アスベスト工場での勤務が原因でびまん性胸膜肥厚を発症した場合は、医療費等の補償とは別に、国から損害賠償金を受け取れます。その詳細は以降解説する通りです。
(1)国の賠償金制度(工場型)とは
国がアスベスト工場の元労働者に賠償金を支払う制度は、元労働者本人やその遺族が国を相手取って訴訟を提起し、一定の要件を満たすことを確認させ、和解金を支払ってもらう手続きです(厚労省サイトより)。こうした仕組みから、賠償金を受け取る手続きのことを「工場型アスベスト訴訟」と呼ぶこともあります。
この制度が創設されたのは、通称「大阪泉南アスベスト訴訟」の最高裁判決(平成 26 年 10 月 9 日)が契機となりました。判決では、昭和33年5月26日には国が旧労基法に基づく省令制定権限を行使して,罰則をもって石綿工場に局所排気装置を設置することを義務付けるべきであったとして、権限行使をしなかったことは違法であると判断されました。
(2)和解の条件
工場型アスベスト訴訟での和解(=賠償金支払い)の条件は、下記の3つの要件を全て満たすと確認された時です。これらの証明として、年金機構や労働基準監督署、そして担当医の診断書を提出しなければなりません。
1958年(昭和 33 年) 5 月 26 日~1971年(昭和 46 年) 4 月 28 日に、局所排気装置を設置すべきアスベスト工場内で石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと
その結果、びまん性胸膜肥厚等の健康被害を被ったこと
損害賠償請求権の時効完成前に提訴すること
(3)受け取れる賠償額(和解金額)
国の賠償金制度(工場型)の支払額は、じん肺健康診断に基づく管理区分に応じて基準があります。びまん性胸膜肥厚(管理4)の患者については、存命の場合で1,150万円、死亡した場合は1,300万円です。
上記金額とは別に、遅延損害金(民法第404条の定めによる/年3%)と弁護士費用も支払われます。
配信: LEGAL MALL