欺罔行為とは?詐欺罪が成立する行為と成立しない行為の違いを解説

欺罔行為とは?詐欺罪が成立する行為と成立しない行為の違いを解説

3、人を錯誤に陥れるような欺罔行為がない場合も詐欺罪は不成立

欺罔行為は人を錯誤に陥れるような行為である必要があります。

そのため、明らかに嘘であることがわかるものや突飛な発言等、通常人であれば到底騙されないようなことをしても、欺罔行為にはあたりません。

また、多少の虚偽・誇張を含む宣伝であっても、取引の慣行上許容されている駆け引きの範囲内のものであれば欺罔行為とはいえません。

4、何も言わなくても詐欺罪が成立することも!不作為による欺罔行為とは

詐欺罪の欺罔行為というと、積極的に人を騙そうとしたり意識的に人を欺いたりする行為をイメージする人が多いですが、何も言わなくても詐欺罪が成立することがあります。

積極的挙動(行為をすること)のことを「作為」、消極的挙動(行為をしないこと)を「不作為」と言いますが、不作為による欺罔行為でも詐欺罪が成立するケースがありますので注意が必要です。

以下の各ケースで、欺罔行為があるといえるかどうかを見ていきましょう。

(1)釣り銭詐欺のケース

釣り銭詐欺のケースに関して、以下の2つの場面で詐欺罪が成立するのかをそれぞれ確認していきましょう。

①レジ係が釣り銭を余分に渡そうとしていることを知りつつ、そのまま黙って受け取った

レジ係が釣り銭を余分に渡そうとしていることを知りつつその場で黙って受け取ったケースでは、積極的にレジ係を騙そうとしているわけではありません。そのため、作為による欺罔行為は存在しません。

しかしながら、レジ係は釣り銭の金額を勘違いしているので、釣り銭の受け取り手には真実を告知する義務があります。

それにもかかわらず黙って釣り銭を受け取った行為は、不作為による欺罔行為に該当します。

したがって、このケースでは詐欺罪が成立します。

②レジ係の面前で釣り銭を受け取り、帰宅してから釣銭が多かったことに気づいた場合

①のケースとは異なり、②のケースでは、レジ係が釣り銭を渡す時点では釣り銭が多いことに気づいていません。

釣り銭が多いことにそもそも気づいていないのですから、レジ係が釣り銭を渡そうとしている時点で真実を告知することはできず、欺罔行為はないと言えます。したがって、詐欺罪は成立しません。

もっとも、レジ係は釣り銭の金額が本来よりも多いことに気づいていれば釣り銭を客に渡しておらず、本来より多い釣り銭をお客にあげる意思があったわけではありません。

そのため、釣り銭がお客に渡され、釣り銭の占有がレジ係からお客に移った後、釣り銭を自らのものにしようとした時点で、占有離脱物横領罪が成立する可能性があります。

(2)無銭飲食・宿泊のケース

続いて、無銭飲食・宿泊の場合に詐欺罪が成立するかどうかについて、ケースごとにご紹介します。

①所持金がなく支払いの意思もないのに飲食・宿泊をした場合

飲食・宿泊をする際、通常はお金を支払う意思があることを前提に、飲食・宿泊のサービスを受けます。

支払いの意思がないにもかかわらず飲食・宿泊をした場合、支払い意思がないのに支払い意思があるかのように人を欺き(欺罔行為)、支払い意思があるものと店側を錯誤に陥らせ、飲食や宿泊のサービス提供を受けていることになります。

したがって、このケースでは詐欺罪が成立します。

②飲食・宿泊をした後に所持金がないことに気づき、隙を見て逃走した場合

このケースでは、飲食・宿泊のサービス提供を受ける意思表示をした時点ではお金を支払う意思があったため、相手を騙そうとしたわけではなく欺罔行為は存在しません。

また、その後隙を見て逃走していますが、店側に何も言わず単に逃走した場合は、店への支払いを免れたという意味で財産上の利益を盗んだこととなり「利益窃盗」に該当します。

しかし、現行法上、窃盗罪は「他人の財物」を盗み取ることで成立する犯罪とされていますので、利益窃盗は窃盗罪にも該当しません。

結局、このケースでは現行法上、犯罪は成立しないことになります。

③飲食・宿泊をした後に所持金がないことに気づき、店主に「金を下ろしてくる」と偽って逃走した場合

②のケースでは単に逃走したのに対し、③のケースでは店主に「金を下ろしてくる」と偽ってから逃走しています。

この場合、支払う意思がないにもかかわらず支払い意思があるかのように店主を欺き、ATMや銀行でお金を戻った後に客は戻ってくると店主を錯誤に陥らせ、店の外に出ることを許し、客は支払いを免れるという財産上の利益の移転を受けています。

したがって、この場合は詐欺罪が成立します(刑法第246条2項)。

④飲食・宿泊をした後に所持金がないことに気づき、店主に「知人を見送ってくる」と偽って逃走した場合

店主に「知人を見送ってくる」と偽って逃走した行為に欺罔行為が成立するかどうかですが、店主は支払いの猶予をしたわけではないので処分行為が存在しないとも考えられそうです。

しかし、飲食店で注文したものを飲食した後や、旅館でチェックアウト時刻が到来している場合には、「知人を見送ってくる」との申出を許した店主の行為は、一時的に支払いを猶予する黙示の意思表示に当たり、不作為による処分行為が存在すると考えられます。

したがって、この場合にはやはり、詐欺罪は成立します(刑法第246条2項)。

関連記事: