3、改正少年法における特定少年の扱われ方~18歳成人で何が変わるのか
特定少年の区分が設けられることで、該当する18歳・19歳につき、追加で3つの変更点があります。
将来を直接左右する保護処分の特例から、改正少年法で何が変わったのか確認していきましょう。
(1)保護処分決定の特例新設
特定少年に対する保護処分の判断基準は、今後改正法の例外的な扱いを受けます。
改正前の少年法では、施設に送るかどうかの判断で少年の性格・成育歴・環境等(=要保護性)が重視されていました。
どの処分にせよ期間をあらかじめ指定することなく、保護観察所や少年院の判断で、柔軟に伸縮できるような配慮もされていました。
改正少年法でも18歳未満の少年については上記の措置が継続されますが、18歳・19歳の少年事件については異なる扱いとされているのです。
具体的には、改正少年法第64条で以下のような保護処分決定の特例を設ける形です。
▼処分決定に「犯情の軽重」を考慮
特定少年の処分を判断する時は、18歳未満の場合には明示されない「犯情の軽重」を考慮すると条文で明記されています(第1項柱書)。
この規定により、少年本人の事情がこれまでに比べて軽視され、代わりに犯罪の経緯や招いた結果が重視されるようになる可能性があります。
▼保護観察期間の固定
特定少年を社会に戻して更生させる「保護観察」は、今後6か月又は2年に期間が固定されます。
2年の決定で遵守事項に反したケースでは、上限1年以内で少年院に収容できる期間を定めて決定されます(第1項1号・2号、第2項)。
▼少年院送致の入所期間も「3年以内で犯情を考慮」
特定少年について少年院送致の決定をする時は、3年以内と範囲が決まっているものの、犯情の軽重を考慮して収容期間が定められます。
これにより、短期間で矯正教育の効果がしっかり現れたとしても、すぐに社会に戻ることができるとは限らないと考えられます(第1項3号・第3項)。
(2)虞犯(ぐ犯)少年規定の適用除外
少年法の保護は、親の指導に従わない等の「将来非行か犯罪に至る可能性のある未成年者」にも及びます。このような未成年者を虞犯(読み方は“ぐはん”)少年として扱うことで、捜査機関の介入と家庭裁判所の審判を可能にして、適切に教育を行えるようにする仕組みです。
特定少年に対しては、改正法第65条で上記仕組みの例外となります。
家庭で穏やかに正しい方向へと導ける有益な改正のように思えますが、安心はできません。
環境調整の必要性が見過ごされ、犯罪へと一直線に進みやすくなるリスクが大きくなるともいえるからです。
(3)刑事事件の特例の適用除外
その他の特定少年にかかる変更点は、非行・犯罪について少年に有利とされる規定からの除外です。
一目で分かるように整理すると、警察沙汰になった場合は次のような扱いを受けます。
▼特定少年が逮捕or刑の言渡しを受けるとどうなる?
拘束が長期間に及ぶ可能性がある(成人と同じ)
刑期に弾力性がなくなり、最初にはっきりと期間が決められる(同上)
罰金等が支払えないと、労役場で働く必要がある(同上)
刑を受けると、しばらくは一定の職業に就けなくなる(同上)
① 勾留
少年の身体拘束は成人と比べて負担が大きく、やむを得ない場合でないと「勾留」は行われません(第48条)。
しかし、特定少年は上記特例の対象とならず、成人と同様に、長期間拘束される可能性が高くなります。
②不定期刑
少年の刑は「懲役○年以上○年以下」とのように幅のある期間とされ、矯正の進み具合によって早く終えられる余地が設けられています(不定期刑/第52条)。
しかし、特定少年は上記特例の対象とならず、成人と同様に懲役〇年のように刑期が明確に定められます。
③換刑処分
成人が罰金刑や科料刑を受けた場合、納付できない時には労役場で働かなくてはなりません。
この「換刑処分」は、少年は適用対象外です(第54条)。
しかし、特定少年は上記特例の対象とならず、お金がなく命じられた金額が納付できない時には、成人と同様に留置され作業しなくてはなりません。
④資格制限
少年のとき犯した罪について刑に処せられた場合、「資格制限の特例」(第60条)によって、資格の取得等を制限する法令の適用は緩和されます。
しかし、特定少年は上記特例の対象とならず、刑に処せられた場合、成人と同様に資格の取得制限を受けることになります。
4、改正少年法でも変わらないポイント
特定少年に対する措置や処分は諸々の点で厳しくなるように思われますが、なるべく矯正教育と環境調整だけで普通の生活ができるようにする運用は維持されています。
報道関係に関しても、より未熟な子ども達と同じように、一定の配慮はなされるでしょう。
(1)健全育成目的は維持される【変更されなかった運用も多数あり】
少年法1条で規定される健全育成目的は特定少年にも適用されるため、全ての手続において、その理念に沿った運用が求められることは変わりません。
▼特定少年に対しても従来通り維持される運用(一例)
全件家裁送致
犯罪の嫌疑があるときは、原則として全ての事件を家庭裁判所に送致する運用
少年鑑別所送致等の観護措置
勾留の必要性が低い場合は在宅で、必要性がある場合は少年鑑別所で観護する運用
調査官調査等(科学主義)
少年本人の事情について、専門的知見のある人物による調査・鑑別を行う運用
試験観察制度
最終的な処分を決めるまでの間に、適切な助言・指導をしながら状況観察する運用
国選付添人制度
家庭裁判所で審判を受ける時、国費で弁護士を付ける運用
(2)実名等の公表にも従来通り配慮がある
特定少年について実名報道の可能性があると説明しましたが、当たり前のように氏名等が公開されるわけではありません。
一定の重大犯罪でない限り、公開法廷で少年の氏名を掲示しない、読み上げない等の配慮は行われると考えられます。
配慮の必要性については、日弁連が改正少年法のパンフレットで国会の答弁引用と共に提起しており、実際の運用でもしっかりと守られていくことが期待されます。
配信: LEGAL MALL