3、労災被害者は、労災保険と損害賠償を二重に請求できるのか
労災被害者は、労災保険の受給に加えて損害賠償請求をすることができます。
しかし、労災被害者が労災保険の受給と損害賠償請求をした場合、一部で補償の二重取りが発生することになります。
そのような調整を行う必要があり、「損益相殺」「求償」「控除」という概念を理解しておく必要があります。
損益相殺とは、既に、労災保険により補償されている場合、会社等に民事上の損害賠償請求をする際にその受給額が差し引かれて損害が計算されることをいいます。
逆に、民事上の損害賠償請求を先行して請求した場合、労災保険の支給の際には、受け取った金額に応じて控除されることになります。
なお、国は、労災給付をした後に、加害者に対して求償を行い、その費用の補填を求めることになります。
労災保険と損害賠償請求との関係は少し複雑ですが、先に損害賠償請求をする場合は、示談書に必ず、当該和解金が労災保険の給付とは別に受け取ったということを明記しておくようにしましょう。
詳しくは以下の記事を参考にして下さい。
4、労災被害について損害賠償請求する方法
労災被害において実際に損害賠償請求する方法について解説します。
(1)被害額および請求額を算出する
まずは、被害額を算出することになります。被害額は大きく
積極損害
消極損害
慰謝料
に分かれます。
積極損害には、治療費や介護費用、交通費などが含まれます。
領収書をベースに計算をすることになります。
消極損害には、逸失利益や休業損害が挙げられます。過去の基礎収入などを参考にして計算をすることになります。
慰謝料は、精神的苦痛を慰謝する金員を指します。
基本的には、入通院期間から算定をする入通院慰謝料(傷害慰謝料ともいいます。)と、後遺障害が残った場合の後遺障害慰謝料に大別できます。
また、訴訟においては、請求額として弁護士費用として総損害額の10%を上乗せして請求することが実務では多くみられます。
(2)相手方の責任を証明する証拠を揃える
労災での損害賠償請求では、会社が具体的な安全配慮義務を果たしたといえるのかが争点となります。
そこで、会社に具体的な義務違反があったといえる証拠を揃える必要がありますが、個別具体的に考えなければなりません。その際には、厚労省などから出ている通達を参考にしましょう。
例えば、熱中症による労災の場合、厚労省から出ている平成21年通達や「職場における熱中症予防マニュアル」などが参考になります。そこでは、
作業環境管理(WBGT値の測定等)
健康管理(健康診断の実施等)
労働衛生教育(緊急時の救急措置等についての教育等)
等が求められております。
そこで、会社を訴える際にはそういった措置がどこまで執られていたのかを客観的に明らかにする証拠が必要となります。
会社にそういったマニュアルがあったのか、現場でどの程度そのマニュアルに沿った作業がなされていたのか等といった証拠を揃えることになるでしょう。
ただ、被害者が自身で全ての証拠を揃えるのは困難であるため、会社に対して資料の開示を求めたり、場合によっては証拠保全手続きをしたりすることが必要になります。
(3)内容証明郵便を送る
請求内容を確定し、証拠に基づいた請求ができるようになったら、会社に対して実際に交渉をすることになります。
その際には、請求内容が客観的に証明できるように内容証明郵便を送ることが一般的です。会社との間で交渉が上手くいかない場合は、裁判所を通じた手続きが必要になるかもしれません。
裁判所を通じた方法としては、労働審判、民事訴訟が考えられます。
労働審判では、早期解決が見込めるというメリットはありますが、3回の期日内に話し合いをしなければならず、重大な事故などでは、労働審判で終わらせることは難しいかもしれません。
労働審判では、訴訟に移行した際の争点を少なくするという気持ちで臨んだ方が良いかもしれません。
また、民事訴訟は、労働審判を経由せずにいきなり提起することもできます。
配信: LEGAL MALL