労災保険と損害賠償請求との関係は?損害を補填してもらう方法

労災保険と損害賠償請求との関係は?損害を補填してもらう方法

5、労災の損害賠償請求権の時効消滅に注意

労災の損害賠償請求権には時効という概念があり、この期間を徒過してしまうと、請求が認められない可能性があります。

以前は、不法行為構成にするのか、債務不履行構成にするのかで消滅時効の期間が異なっておりました。

しかし、法改正により、人の生命又は身体を害する場合は、いずれの構成をとっても5年になったため(債務不履行では、権利を行使することができることを知った時、不法行為では、損害及び加害者を知った時から起算します。)、両者において基本的に消滅時効による違いが生じないことになりました。

消滅時効期間が間近に迫っている場合は、内容証明郵便等で催告をすることにより、催告した時から6ヶ月間は時効完成が猶予されます。

そのため、消滅時効期間に裁判上の請求をするのが困難な場合は、とりあえず内容証明郵便を送付することが多いです。

6、労災で損害賠償請求が認められた判例の紹介

労災で損害賠償請求が認められた判例について紹介します。

なお、安全配慮義務違反を理由に訴えた場合でも不法行為を理由に訴えた場合でも実質的な審理については同じになりますので、この点は分けずに解説を致します。

(1)安全配慮義務違反が認められた判例

工場内のプレス機器に指を差し込んで4指切断の負傷をした東京地裁平成27年4月27日の事案について紹介します。

この事案では、被害者は、工場長として被告会社で勤務をしており、プレス機を利用して加工作業を行っていました。

そうした勤務中、被害者は、本件プレス機に左手を挟み4本の指を切断する怪我を負いました。

この裁判例では、労働安全衛生法20条1号における機械等の危険防止に必要な措置を講じる義務や、プレス機械等の危険防止について規定された同法規則131条1項所定の措置をあげ、「上記措置は、労働者の身体の安全を確保することを目的とするものであり、これを怠った場合には、不法行為法上の注意義務違反及び安全配慮義務違反を構成するものと解される」と判示して、会社に対して、1651万7514円の支払いを命じました。

(2)工作物責任が認められた判例

工作物責任は、会社では無く、建物の占有者・所有者に対しても責任を追及できる点に特徴があります。

有名な判例としては、アスベスト訴訟があります。最高裁平成25年7月12日の判例では、被害者が勤務していた建物の壁面に石綿を含有する吹き付け材が露出していたことが「本件建物の設置または保存の瑕疵にあたる可能性がある」と判示して原審に差し戻しを行いました。

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