3、強制わいせつ事件における弁護士の活動
では、強制わいせつ事件で弁護士に依頼した場合、弁護士は具体的にどのような活動を行うのでしょうか。
(1)逮捕を防ぐ
まず、まだ逮捕されていない段階で依頼した場合、弁護士は逮捕を回避するための活動を行います。
具体的な活動内容としては、「被害者との示談交渉」が中心となります。示談が成立して被害者に許してもらうことができれば、逮捕される可能性は低くなります。
逮捕を回避できれば、仕事や家事、学業を今までどおりに続けることができますし、実名報道される可能性も格段に低くなります。
(2)逮捕された場合の早期釈放
仮にすでに逮捕されている場合でも、逮捕直後に弁護士に依頼すれば、早期釈放の可能性が高くなります。
被害者と示談することによって早期釈放も期待できますし、弁護士から取り調べの対応についてアドバイスを受けることもできます。
検察官は、逮捕から72時間以内に、被疑者について勾留請求をするか否かを決定します。検察官による勾留請求がなされ、裁判官の勾留決定によってこれが認められた場合、被疑者は原則として10日間(勾留延長により最長20日間)の身体拘束を受けることになります。
勾留は、被疑者が定まった住所を有していない場合や、逃亡や罪証隠滅のおそれが強い場合に限って認められるものです。
しかし、実際には検察官の捜査の都合などによって、勾留請求が行われているケースが多いといわれています。
弁護士に依頼していれば、逮捕の段階で検察官や裁判官に意見書を提出し、勾留請求や勾留決定をしないことを求めていくことができます。また、仮に裁判官によって勾留決定がなされてしまった場合でも、その決定に対する準抗告などの法的手段を活用することによって、早期の身柄解放を目指すこともできます。
(3)被害者との示談交渉
強制わいせつ事件を起こしてしまった場合に、処分を軽くするために最も重要なことの一つは、被害者と示談をすることです。
示談が成立すれば、被害者が受けた損害が回復され、被害者が加害者を許すことになります。示談成立の際に書面を作成することで、被害者が加害者を許したことをより客観的に検察官や裁判官に示すこともできます。また、示談をすることで被疑者の反省の態度を示すことにもなります。
とはいえ、被害者と以前から顔見知りであったなどの場合を除いては、加害者とされている者にとって被害者の連絡先を知ることは容易ではありません。
よって、被疑者が自力で被害者と示談をするのは、困難といえます。
これに対し、弁護士に依頼した場合には、示談交渉を行う可能性が生じてきます。
なぜなら、被害者は、加害者本人ではなく加害者の弁護士に対してであれば、警察などを通じて連絡先を教えてくれる場合があるからです。
このようにして被害者と示談交渉を行い、示談が成立すれば、警察官や検察官も「今回は処罰する必要性なし(または必要性が小さい)」と判断し、不起訴処分につながりやすくなります。
(4)不起訴を目指す
起訴される前に弁護士に依頼した場合、その時点で弁護士が目指すゴールは「不起訴処分」です。
不起訴処分とは、起訴しないまま捜査を終了させる検察官の処分のことです。刑事裁判を受けることがなくなるので、有罪判決を受けることもなく、前科もつかないことになります。
弁護士は、不起訴処分を獲得するために、被害者と示談交渉を行う他にも、信頼できる身元引受人を確保したり、検察官に意見書を提出したりするなど、さまざまな弁護活動を行います。
(5)軽い処分を目指す
仮に起訴された場合は、刑事裁判で「執行猶予」付きの判決を目指すことになります。
執行猶予とは、有罪判決で刑を言い渡されるものの、ただちに刑を執行されることはなく、指定された一定の期間に再度犯罪を行わなければ、刑を受けることがなくなるというものです。
つまり、執行猶予がつくかどうかによって、被告人が刑務所に服役するかどうか変わるため、執行猶予を獲得できるかどうかは極めて重要な問題になります。
(6)無罪を目指す
無罪を目指す場合には、弁護士の力を借りる必要性がさらに高いといえます。
無罪判決を獲得するために重要なことは、取り調べにおいて自白の供述調書を取られないようにすることです。
しかし、被疑者が身柄を拘束された状態で、一人で戦っていると、厳しい取り調べに耐えかねて虚偽の自白をしてしまい、その内容の調書を取られてしまうケースが少なくありません。一度自白調書が作成されると、その自白を刑事裁判で覆すことは困難といえます。
弁護士に依頼すれば、適宜被疑者と接見をして、取り調べの対応についてアドバイスをすることができます。また、不適切な取り調べが行われている場合は、警察署や検察庁へ抗議して対応を正す活動を行うこともできます。
4、強制わいせつに強い弁護士を選ぶポイント
強制わいせつ事件を依頼する弁護士は、弁護士であれば誰でもよいというわけではありません。不起訴処分や無罪を獲得することは容易とはいえませんので、強制わいせつ事件を扱った経験が豊富な弁護士を選ぶことが重要です。
強制わいせつ事件に強い弁護士を選ぶポイントは、以下のとおりです。
(1)強制わいせつ事件の解決実績が豊富にあるか
第一に、強制わいせつ事件の経験が豊富にある弁護士を選ぶ必要があります。
民事事件と刑事事件では弁護士の活動のポイントが異なりますし、刑事事件の中でも強制わいせつ事件には特有のポイントがあります。したがって、強制わいせつ事件に力を入れている弁護士に依頼するのが理想的です。
インターネットで検索するなどの方法で、弁護士を探しましょう。ホームページに、強制わいせつ事件の解決実績や強制わいせつに関するコラムなどを豊富に掲載している法律事務所には、強制わいせつ事件に強い弁護士がいると考えられます。
(2)迅速に対応してくれるか
第二のポイントは、弁護士が迅速に対応してくれるかどうかです。
特に、逮捕された場合は、取り調べの初期段階の本人の供述が重要な意味を持ちます。この段階で不利な供述調書を取られると、処分が重くなってしまう可能性があります。
そのため、依頼したら迅速に接見に出向いて、本人にアドバイスをしてくれる弁護士を選ぶ必要があります。
また、不起訴処分を獲得するには、検察官が起訴の判断をするまでに被害者との示談交渉や身元引受人の確保、検察官への意見書提出などの活動を完了させなければなりません。
弁護士の対応が遅れると、期限内に間に合わずに起訴されてしまう可能性があります。
逮捕される前であっても、弁護士の迅速な活動は重要です。いつ被害者に告訴され、逮捕されてしまうか分かりませんので、その前に被害者との示談を成立させ、逮捕されるのを回避すべきです。
(3)弁護士費用が妥当か
第三のポイントとして、弁護士費用についても確認しておきましょう。
弁護士費用は各弁護士、または各法律事務所において独自に定めているため一律ではありませんが、おおむね相場どおりの弁護士費用を設定している弁護士が最も安心できます。
配信: LEGAL MALL