おいしいごはんに向き合い続けた開発ストーリー

お米の状態や釜の内部を分析し、最適な炊き方を自動で選んでくれる炊飯器ビストロ。ごはんの味にとことんこだわった炊飯器の開発は「おいしいごはんとは何か」、その定義付けから始まりました。読むとごはんが食べたくなる、そんなお話を開発者のお二人に聞きました。

おいしく炊けたサインは表面にできた「カニ穴」

「おいしいごはん」と聞いたとき、どんなごはんを思い浮かべるでしょうか。

「『粒感・ふっくら、その結果カニ穴があいている』ごはんを『おいしいごはん』と定義し、それを目指しました」と話すのは、炊飯器ビストロの「おいしさ」の部分の設計を担当した山中 百合恵さん。

カニ穴とは何なのか。どうしてカニ穴ができるとおいしいごはんになるのか。
山中さんと、炊飯器の機構設計担当の龍田 修さんが語ります。

左:龍田 修さん 右:山中 百合恵さん

なぜカニ穴ができるとおいしい?

2023年9月上旬、パナソニックから可変圧力IHジャー炊飯器 ビストロ Vシリーズが発売されました。

山中:せっかく新しい炊飯器を開発するのなら、一人でも多くのお客様に「おいしい」と思ってもらえるようなものにしたいと思いました。

山中:最近では、ほぐれが良く粒感を楽しめるごはんがトレンドで、好まれる傾向があります。それも意識しながら、「日本人の誰もが『おいしい』と思えるようなごはん」を目指して、商品の開発を行いました。炊飯器ビストロでは、炊き上がったときのごはんのツヤ感、美しい白色、食べたときの触感、甘みと旨みすべてのバランスが整ったごはんを炊けるようにしており、更に最近のトレンドに合わせた、「粒感・ふっくらごはん」が炊けるようにしています。実は、お米業界では、ごはんがおいしく炊けているのかどうかは、炊き上がりを見れば一目瞭然だと言われています。それが、カニ穴と呼ばれる状態です。

龍田:カニ穴とは、ごはんが炊き上がった際に、表面にぽつぽつと空いた穴のことを言います。よく「かまどで炊いたごはんはおいしい」と言いますよね。かまどは大火力でごはんを炊くので、強い沸騰力で泡が生じ、その泡がお米一粒一粒の間を通りながら上がっていきます。結果、炊き上がったごはんの表層の面にくぼみのような穴ができるんです。沸騰泡が鍋底から表面に突き上がることで、表層の米が立ち上がったり、いろいろな方向を向いたりします。そんなふうにして、炊き上がった際に表面にできた小さな穴のことを、カニ穴と呼びます。パナソニックでは大火力と独自技術である減圧沸騰による沸騰泡でカニ穴を作ります。

龍田:沸騰泡は、お米の間を通って、表面に出ていきます。その際、熱々の泡がお米一粒一粒に熱をくまなく伝えていき、芯までムラなく火が通るんです。お米の芯までしっかり熱が通ると、中のでんぷんが膨潤(水分を吸収し、膨らむこと)し、ほぐれもよく、口当たりもふっくらとしたごはんが出来上がります。カニ穴はごはんを炊く工程で、釜全体にくまなく熱が行き渡った証なのです。

どんなお米でもおいしく炊き上げるために、新開発した調理プログラムとは

同じかまどを使っても、ごはんを炊くときの気温や湿度、保存状態によって、出来栄えは異なります。環境の条件だけでなく、お米の銘柄によっても味わいに変化が生まれます。

どんな環境で、どんな銘柄のお米を炊いてもおいしく仕上がる。ビストロは、そんな炊飯器を目指しています。

かまどで炊いたごはんを炊飯器で実現

龍田:かまどで炊くとおいしいのですが、お米の状態によって水の量を調整する必要がありますし、時間もかかります。

山中:自力で炊くのは難しいです。レシピ通りに炊いても、お米も保存状態、銘柄、気温、天気、含水量など、お米の状態によって仕上がりは変わってくるので、かまどでごはんを炊くときは、常に様子をチェックしないといけません。

龍田:匠の技ですよね。

山中:その通りですね。

ハイレベルなごはんを炊くには、ハイレベルな技術が必要。それでも、毎日おいしいごはんを食べてほしい。そんな想いから、匠の技を持つビストロが誕生しました。

龍田:炊飯器にまかせるだけで、誰もがおいしくごはんを炊くことができる。そんな炊飯器になったと思います。

かまどは、約1000℃を超える大火力によって、おいしいごはんを炊き上げます。
そんなかまどと同等のごはんを、ビストロはどのように実現したのでしょうか。

AIが匠に代わってごはんを炊き上げる

山中:今回、釜の中の状態をセンサーで検知して、約9600通り※
の炊き方の中から、最適なものを選んで実行するよう、プログラミングしました。よく「9600通り※
も!?」と驚かれるのですが、様々な気候やお米の状態を想定した結果、たどり着きました。ごはんを炊くときに入れる水の量も、毎回必ず同じ量になるとも限りません。どんな条件のお米でもベストなごはんが炊けるように、試しては食べてを繰り返しました。龍田さんにも、いっぱい食べてもらいましたね。

龍田:そうですね、たくさん食べましたね(笑)。

炊飯器ビストロには「ビストロ匠技AI」を搭載。お米の状態を検知したビストロ匠技AIが、約9600通り※
の炊き方の中から火力・圧力機構に指示を出し、ふっくら粒立ちのよいごはんを炊き上げます。

※ビストロ炊飯コース3合において。

加圧と減圧の調整が自由自在にできる釜を開発

龍田:「急減圧バルブ」という機能を搭載しています。あらかじめ、釜内を加圧しておき、タイミングが訪れたら、中のバルブを開いて、急減圧することで、爆発的な沸騰を起こします。高温を一気に渡らせることで、かまどで炊いたような味わいのあるごはんになるんです。

さらに、追い炊き・蒸らしの工程で、高温状態がキープできる「加圧熱風ポンプ」で、お米の芯まで熱を浸透させ、粒感もしっかり感じられるようになりました。

龍田:従来の炊飯器では、後半は釜の中の水分がなくなってしまい、加圧が難しくなってしまう側面がありました。そのようなときでも、加圧熱風ポンプで急速に圧力を上げて、高温を保てるようにしています。

おいしいごはんを毎日食べて、幸せを感じてほしい

龍田:急減圧をかけるタイミングが難しくて…。「ここだ」というときにバルブを開けないと、うまく炊き上がらないんです。山中さんに、試作品を「おいしくない」と言われたこともありましたね。

山中:(笑)。

龍田:自分で試食しても「たしかに」と思ったり…。「ここをもう少し改良しよう」など話し合い、みんなで乗り越えました。

匠の技を再現し、ごはんを炊き上げる炊飯器ビストロ。開発者たちは、どうしてここまで「おいしいごはん」にこだわるのでしょうか。

山中:パナソニックに入社したとき、先輩が開発した炊飯器で炊いたごはんがとてもおいしくて、感動したことがあります。私もおいしさで感動させられるような炊飯器を作りたいと思って開発してきました。たとえば旅館や料亭で提供される炊き立てごはんは、ぜいたくな料理だと思います。そんなぜいたくなごはんを家で毎日食べられたら、日々の食生活をもっと楽しんでいただけると思います。おいしいごはんを炊くことのできる技術をお届けするのは、私たちの使命だと考えています。

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