今年の花粉症対策どうする?|飛散前に薬を飲まないと意味ない?、2024年最新対策グッズ、治療法Q&Aほか


久手堅 司 (せたがや内科・神経内科クリニック院長)

くでけん・つかさ/医学博士。天候と不調の関係に着目した外来に力を入れている総合内科、頭痛等の専門医。著書に『気象病ハンドブック』(誠文堂新光社)等。

INTERVIEW

温暖化によって花粉量が増加中、近年は重症化の傾向も。

今や3人に1人が罹患している花粉症。温暖化による花粉の飛散量の増加が花粉症の重症化の原因にもなっています。症状をやわらげ、少しでも快適に過ごせる方法を知っておきましょう。

今年も間もなく花粉症の季節が到来。ここ20年で花粉症に悩む人の数は増え続け、2025年には罹患者が倍増するという予測も。重症化すると集中力や判断力が低下するなど日常生活に支障をきたすこともある花粉症。これを重く見た政府は昨年10月に花粉症対策を取りまとめ、スギ人工林の伐採や花粉の少ない品種への入れ替えの加速化、AIを活用した花粉飛散量予測の高精度化などの方針を発表しているほど。しかし、花粉の飛散をゼロにすることは不可能。であれば私たちも自力でできる限りの対策をしたいもの。具体的にはどんな対策があるか、気象病や花粉症対策に詳しい医師の久手堅司先生に伺った。

まず、そもそも花粉症とは何なのか、基本的なところからおさえておこう。
「花粉症は、花粉によって引き起こされるアレルギー疾患のこと。主な症状としては、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどのアレルギー性鼻炎や目のかゆみ、充血などのアレルギー性結膜炎などです。ぜんそくやアトピー性皮膚炎を併発することもあります。スギ、ヒノキの花粉によるものが圧倒的に多いのですが、これらの花粉飛散の主な季節(1月末ごろから6月ごろまで)が終わっても、ブタクサ、ヨモギ、イネ科植物の花粉が夏から秋にかけて飛散します。結局、一年中花粉症に悩まされている人は少なくありません」

花粉に対する抗体が一定量を超えると発症する。

大人になってから突然、花粉症になった、最初はスギやヒノキの季節だけだったのにだんだん秋も花粉症に悩まされるようになったという人も多い。
「体の中に花粉(アレルゲン)が入ると体内でそれに対する抗体がつくられます。抗体ができてもすぐに花粉症になるわけではなく、数年から数十年花粉を浴び続けることで抗体の量が増えると、何かのきっかけで花粉症を発症するのです。最初は飛散量の多いスギ花粉だけに反応していたのに、ほかの植物の花粉も浴び続けるうちに抗体が増え、秋の花粉に対してもアレルギー反応を起こすようになることは十分ありえます」

近年、花粉症が重症化していると感じている人も多いのではないだろうか。これについて久手堅先生は、「花粉の飛散量は気候変動の影響を大きく受け、気温が高くなると飛散量は増えます。近年の温暖化によって花粉の飛散量が増えていることが、重症化の一因です。昨年も猛暑のためスギ花粉が大量に飛散しました。通常は花粉が多かった翌年は少なくなるといわれていますが、温暖化でそれがあてはまらなくなってきています。これ以上温暖化が進むと、何十年か後にはスギ花粉の飛散時期が年2回になるという最悪の事態も考えられます」

となると花粉の量も2倍になる!? さらに重症化が進みそうだ。日本アレルギー学会の試算によると、重い花粉症による職場の生産性低下の経済的損失は年間4兆円を超えるとか。これは侮れない数字だ。

花粉症を軽減するには花粉を寄せつけないこと。

「花粉症は鼻の粘膜に花粉が付着することによって起こります。言い換えれば、花粉がつかなければ花粉症の症状は出ません。まずは専門の医療機関でアレルギーテストを受けて、どの花粉がアレルゲンになっているかを調べ、それを避けることが、花粉症予防の第一歩です」

予防のポイントは、花粉をつけない、花粉を家に入れない、入った花粉は取り除く、の3つ。花粉をつけないためには、外出の際にはマスクや眼鏡などで花粉が粘膜に触れないようガードすることが基本中の基本。花粉が付着しやすいウールなどの服を避け、表面がつるつるした素材の衣服を身につけるのも効果的だ。日本気象協会が発表する花粉飛散予測をチェックして、外出の際には花粉が多く飛散する時間帯を避けるのも一つの手。

花粉を家に入れないためには、帰宅したら衣服についた花粉をブラシなどで払い落とす。洗顔や手洗いなどで花粉を落とすことも忘れずに。

入った花粉を取り除くためには、こまめな掃除が一番。また、空気清浄機の使用が効果的。「花粉はもちろんPM2.5、ウイルスなどかなり細かな粒子も除去できる高性能な製品の使用がおすすめです」

また、花粉症の増加は、食生活の欧米化や腸内細菌の変化などと関連するとも。
「腸内には人の免疫機能の約70%が集まっているため、栄養バランスの良い食事や善玉菌を増やす食生活によって腸内環境を整えることも、花粉症の症状を悪化させないためには有効な手段です。規則正しい生活、質の良い睡眠を取り、正常な免疫機能を保つことも大事な予防策となります」

薬を使用するなら花粉が飛び始める前に。

これらの対策だけでは改善できない場合は、早めに内科、耳鼻咽喉科、眼科、アレルギー科などの専門医に相談しよう。

遅くとも花粉が飛散し始める2週間前からアレルギーを抑える薬を飲むことで、症状はかなり改善できる。
「花粉症の治療には、対症療法と根治を目指すアレルゲン免疫療法(舌下法・注射法。詳細は次ページ参照)があります。対症療法は、抗ヒスタミン薬(アレルギー反応を抑える)の経口薬とステロイド点鼻薬が代表的です。処方薬と同等の効果がある市販薬も出ているので、病院に行く時間がない人は利用するといいでしょう」

ところで花粉症は、自然に治ることはあるのだろうか。
「アレルギー反応は一度出たら消えることはありません。過去20年の調査研究を見ても治療をせずに治ったケースはなく、現時点では完治する治療法はありません」と久手堅先生。できることとしては症状をできるだけやわらげることしかないのだ。
「まず、自分は何のアレルギーかを知り、なるべくアレルゲンに触れない生活を心掛けること。重症の場合は早めに医療機関にかかること。市販薬の使用もアレルギー反応の抑制には効果的。ライフスタイルに合わせて最善の方法を探してみてください」

Q&A

こんなときどんな対策をすればいい?

『Hanako』読者アンケートに寄せられた、花粉症に関するお悩みや疑問について、久手堅先生にお答えいただきました。毎日の花粉症対策に役立てよう。

[質問1]
鼻水や鼻づまりの症状があり、風邪か花粉症か見分けがつかない。
透明な薄い鼻水なら花粉症、粘り気のある鼻水に変化するのは風邪。目のかゆみや天気による変化がある場合は花粉症です。

[質問2]
市販薬と専門医の処方薬ではどちらが効きますか?
どちらも効果はおよそ同じですが、医師の処方薬のほうが種類が多く症状に合わせて細かく使い分けが可能。価格も安価です。

[質問3]
鼻うがいや目の洗浄もしたほうがいいですか?
粘膜に付着した花粉を除去して花粉症を軽減できます。ただし目の洗浄は、やりすぎると角膜や結膜を傷つけるので注意が必要です。

[質問4]
腸内細菌を整えるために甘酒を飲んでいます。
そのほか花粉症対策によい食べ物・飲み物はありますか?
発酵食品、食物繊維が豊富な食物、ビタミンE・ビタミンDを多く含む食品、青魚などは腸内環境を整えてくれます。一日3回、規則正しく食事をすることも大事です。

[質問5]
お酒を飲むと鼻がつまって症状が悪化する気がします。
症状が出ているときはお酒は控えたほうがいいですか?
飲酒によって血管が拡張するため鼻づまりが悪化すると考えられます。カフェインの摂りすぎや喫煙も花粉症を悪化させます。アレルギー症状がひどいときは控えましょう。

参考資料:『医薬ジャーナル』 50巻3号(2014年)、「花粉症環境保護マニュアル2022」(環境省)、「花粉症対策 初期集中対応パッケージ」(令和5年10月11日 花粉症に関する関係閣僚会議決定)

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