自然と共生する、兵庫・豊岡の「コウノトリ育むお米」~注目の新品種はこうして誕生した。No.012

自然と共生する、兵庫・豊岡の「コウノトリ育むお米」~注目の新品種はこうして誕生した。No.012

市場を席巻する人気のぶどう、シャインマスカットのように、末永く愛されるヒット品種を―。上の写真の、つややかな炊きたての白米は「コウノトリ育むお米」です。近年、各地にコウノトリとの共生を掲げる農業が登場していますが、その元祖が兵庫県豊岡市の、このお米であることをご存じですか? かつて絶滅したコウノトリが、今再び大空を舞う豊岡市へ。お米や米粉スイーツを買える、おすすめスポットもご紹介!

豊かな生態系を未来に!
豊岡の「コウノトリ育むお米」

取材中に運よくコウノトリを発見! 豊岡市立コウノトリ文化館そばの人工巣塔にて。春に向けて巣を整えているのか、左のコウノトリは小枝の束をくちばしにくわえていた

「コウノトリ “も” 生きていけるということは、人間にとってもいい環境である、ということのバロメーターなのです」

兵庫県豊岡市の米生産者、村田憲夫(むらたのりお)さんに「コウノトリ育む農法」に取り組むわけを尋ねると、そう返ってきました。

コウノトリは、羽を広げると2メートルにもなる大型の鳥。このあたりでは古くは「ツル」と言えばコウノトリを指したそうで、田んぼでエサを獲り、樹上に巣を作ってヒナを育てる姿は、故郷の原風景として親しまれてきました。


試食させてもらった、炊きたての「コウノトリ育むお米」。この日のお米の種類は「つきあかり」。さっぱりとして食べ飽きないおいしさ

ところが、明治時代以降の乱獲や戦後の経済成長期の環境破壊により数が激減。日本で最後の1羽は、1971年に村田さんの田んぼがある一帯で確認されました。

案内してもらうと、冬にもかかわらず満々と水を湛(たた)えた水田が広がっています。聞けば、秋の稲刈り後に米ぬかなどを土にすき込み、水を張ることで、イトミミズなどの土壌生物の活動が盛んになり、翌夏に雑草が生えにくくなるそうです。

農薬や化学肥料に頼らず、こうした水の管理や土作りを工夫する農法は、人工繁殖の取り組みの末にコウノトリの野生復帰に成功した2005年の少し前から、豊岡の生産者たちが苦労して確立してきたもの。

水を湛えた田んぼを背に、JAたじま コウノトリ育むお米生産部部会長の村田憲夫さん。「コウノトリ育む農法」で無農薬と減農薬のコシヒカリ、無農薬のつきあかりを生産

コウノトリは当地の生態系の頂点捕食者であり、「コウノトリ育む」という言葉には、エサとなるドジョウやフナ、カエルやヘビ、野ネズミなどの魚や小動物を含む、豊かな生態系を未来につなごうという想いが込められているのです。

炊きたてを味わうと、粒感が際立つ食べ応えと豊かな米の風味。
「農家の努力が実り、おいしさも理想に追いついてきました。学校給食でも評判がいいんですよ」

そう話す村田さんの笑顔が素敵でした。

PICK UP! >> コウノトリ育むお米

炊きたての「コウノトリ育むお米」。大粒の粒揃いのよさも魅力

コウノトリのエサとなる魚や小動物が生息できるように、農薬や化学肥料に頼ることなく、おいしいお米と多様な生物を同時に育む「コウノトリ育む農法」で育てたお米。大きめの1.9mmの網目で選別した粒揃いのよい食感と、すぐれた食味が魅力。

豊岡市は、1965年から兵庫県とともにコウノトリの保護・増殖の取り組みを開始。数々の困難を乗りこえて1989年に人工繁殖、2005年に自然放鳥、2007年に野外繁殖に成功し、「必ず野に帰す」というコウノトリとの約束を果たした。

「コウノトリ育むお米」はその歩みのなかで、県と市と生産者が一緒になって生産方法を確立してきた歴史をもつ。2007年からは豊岡市内の学校給食でも提供されている。

名称/コウノトリ育むお米
生産地/兵庫県豊岡市
栽培開始/2002年
交配/ ―

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