不同意わいせつ罪とは?強制わいせつとの違いや構成要件を簡単に解説

不同意わいせつ罪とは?強制わいせつとの違いや構成要件を簡単に解説

不同意わいせつ罪とは、簡単にいうと被害者の同意なしにわいせつな行為をする犯罪のことです(刑法176条)。

従来、被害者の同意がないわいせつ行為は強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪として処罰されていました。

しかし、性犯罪に関する法律の規定が見直され、2023年7月13日から施行された改正刑法において、この2つの犯罪が統合されて不同意わいせつ罪が新設されました。

ただし、変更されたのは犯罪名だけではありません。

構成要件が幅広く具体化されたことにより、処罰範囲が広がったことにも注意が必要です。

今回は、

不同意わいせつ罪の構成要件
不同意わいせつ罪と、かつての強制わいせつ罪との違い
万が一、不同意わいせつ罪で訴えられた場合はどうすればよいのか

などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。

この記事が、異性(ときには同性)との関わりの中で、どのような行為が犯罪となるのかが気になる方や、不同意わいせつ罪で訴えられてしまった方の手助けとなれば幸いです。

1、不同意わいせつ罪とは

不同意わいせつ罪とは、被害者の同意なしにわいせつな行為をする犯罪のことですが、その構成要件は刑法176条で細かく定められています。

まずは、不同意わいせつ罪の構成要件や刑罰、時効期間など基本的なことについてご説明します。

(1)不同意わいせつ罪の構成要件

不同意わいせつ罪の構成要件で重要なポイントは、以下の4点です。

同意しない意思の形成、表明、全うが困難な状態にさせること
わいせつな行為と誤信させたり、人違いをさせたりすること
相手が13歳未満の子どもである場合、又は相手が13歳以上16歳未満の子どもで、行為者が5歳以上年長である場合
性交等をしたこと

それぞれ、具体的に解説していきます。

①同意しない意思の形成、表明、全うが困難な状態にさせること

不同意わいせつ罪の構成要件の1つめの類型は、次の8つの行為や事由またはこれらに類する行為や事由を原因として、相手を「同意しない意思を形成し、表明し、若しくは全うすることが困難な状態にさせること、あるいは相手がそのような状態にあることに乗じ」て、わいせつな行為をすることです(刑法176条1項)。

 

 行為・事由       

 わかりやすくいうと              

 ①

 

 

暴行・脅迫

 

 

身体に向けられた不法な有形力の行使や、畏怖させるような害悪の告知により、相手の抵抗を抑圧すること。

 ②

 

心身の障害

 

身体障害、知的障害、発達障害、精神障害などで、一時的なものも含む。

 ③

 

 

アルコールや薬物の影響

 

 

お酒や薬物を飲ませたり使用させたりすること。薬物は覚せい剤や大麻などの違法薬物に限らず、合法な薬物も含まれる。

 ④

 

 

睡眠中などで意識不明瞭な状態

 

睡眠やその他の原因で意識が失われていたり、意識がもうろうとしたりなど、意識がはっきりしない状態にさせること、またはその状態にあること。

 ⑤

 

 

不意打ち

 

 

わいせつ行為がされようとしていることに気付いてから、わいせつ行為をされるまでの間に、行為に応じるかどうかを自由意思で決定する時間的なゆとりがない場合。

 ⑥

 

 

フリーズ

 

 

相手の予想を超える事態に直面して恐怖や驚愕、動揺などにより精神的な平成を失った状態にさせること、またはその状態にさせること

 ⑦

 

虐待

 

虐待を受けて無力感を抱いている状態や、虐待を目の当たりにして恐怖心を抱いている状態など。

 ⑧

 

 

 

立場による影響力

 

 

 

金銭その他の財産に関する経済的な力関係や、家庭・会社・学校など社会的な力関係を背景として、弱い立場にある者が強い立場にある者の要求を拒めば、自分や親族等に不利益が及ぶことを不安に思うこと。

わいせつな行為に同意しない意思を「形成」するとは、ノーと思うことです。

「表明」するとは、相手に対してノーと伝えることです。

「全う」するとは、ノーと伝えた上で実際に拒否することです。

暴行や脅迫を用いて強制的にわいせつな行為をした場合だけでなく、相手の有効な同意がないと考えられるケースが幅広く処罰対象となることに注意が必要です。

②わいせつな行為ではないと誤信させたり、人違いをさせたりすること

2つめの類型は、わいせつな行為ではないと誤信させたり、人違いをさせたりして、わいせつな行為をすることです。

相手がわいせつな行為ではないと誤信したり、人違いしたりしていることに乗じてわいせつな行為をした場合も処罰されます(刑法176条2項)。

「わいせつな行為ではないと誤信」させるとは、外形的にはわいせつな行為でも、性的な意味合いで行うものではないと信じ込ませることです。

例えば、医師が診療行為を装って性的な目的で患者の身体を触るようなことが挙げられます。

「人違いをさせること」とは、被害者が同意している相手になりすましてわいせつな行為をすることです。

例えば、暗闇や被害者にアイマスクを装着させた状態で、配偶者や恋人などのふりをしてわいせつな行為をするようなケースが挙げられます。

これらのケースでは、被害者がわいせつな行為そのものには同意していても、真実を知れば同意しなかったはずであることから、不同意わいせつ罪の一類型として位置づけられました。

従来は準強制わいせつ罪で処罰されていた類型ですが、今回の法改正で条文に構成要件が明記されました。ただし、処罰範囲には特に変更がないと考えられます。

③相手が13歳未満の子どもである場合、又は、相手が13歳以上16歳未満の子どもで、行為者が5歳以上年長である場合

3つめの類型は、「16歳未満の子ども」に対してわいせつな行為をすることです。

ただし、被害者が「13歳以上16歳未満の子ども」である場合は、行為者が5歳以上年長である場合に限り、不同意わいせつ罪が成立することとされています(刑法176条3項)。

13歳未満の子どもは性的な行為に関して適切な判断ができないと考えられるため、同意の有無を問わず、13歳未満の子どもに対してわいせつな行為をすると処罰されます。

この点は、かつての強制わいせつ罪と同じです。

しかし、今回の法改正ではさらに、13歳以上16歳未満の子どもに対するわいせつ行為について、行為者が被害者より5歳以上年長である場合には不同意わいせつ罪が成立するとされました。

例えば、15歳の子どもに対してわいせつな行為をした場合、行為者が19歳までであれば処罰対象とならず、20歳以上であれば処罰対象となります。

この改正は、性交同意年齢が16歳に引き上げる一方で、同世代間の恋愛などで自由な意思決定による性的な交流を処罰の対象から除外したものといえます。

④わいせつな行為をしたこと

不同意わいせつ罪が成立するには、これら①から③のいずれかの類型に該当する状態でわいせつな行為をしたことが必要です。

不同意わいせつ罪のいう「わいせつ」について明確に判断した最高裁判所の判例はありませんが、公然わいせつ罪における「わいせつ」と同様に、「性欲を刺激、興奮または満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」をいうとする見解、また、「性的な意味を有する行為、すなわち、本人の性的羞恥心の対象となるような行為」をいうとする見解などがあります。

いずれの見解をとるにしても、例えば、相手の体を触る、キスをする、抱きつく、自分の性器を触らせる、などの行為は「わいせつ」行為に該当します。

ただし、医師が診療目的で患者の身体を触るのはそもそも「わいせつな行為」にはあたらないとの評価も可能ですし、正当行為(刑法35条)であるともいえ、不同意わいせつ罪は成立しません。

なお、性交や肛門性交、口腔性交、膣または肛門へ陰茎を除く身体の一部や物を挿入する行為もわいせつな行為ですが、不同意性行等罪というより重い犯罪の処罰対象とされています(刑法177条1項)。

そのため、これらの行為は不同意わいせつ罪でいう「わいせつな行為」には当たりません。

(2)不同意わいせつ罪の刑罰

不同意わいせつ罪の刑罰は、6ヶ月以上10年以下の拘禁刑です。

かつての強制わいせつ罪の刑罰は6ヶ月以上10年以下の懲役刑であり、法定の刑期は変わっていませんが、「懲役刑」が「拘禁刑」に変更されています。

拘禁刑とは、従来の懲役刑と禁錮刑を一本化して創設された刑罰であり、受刑者を刑務所等の刑事施設に収容して、改善更生を図るために必要な処遇をするものです。

懲役刑とは異なり拘禁刑では、受刑者は必ずしも刑務作業を課せられるわけではありません。

受刑者それぞれの特性に合った指導などの処遇が行われます。

この改正が行われた理由は、性犯罪の加害者は服役した後も性犯罪を繰り返すケースが多いことから、従来の懲役刑では改善更生の効果が十分ではないと考えられたからです。

拘禁刑の導入によって受刑者に対する処遇が今までより過酷になるわけではありませんが、実務の運用には注意が必要です。

刑事裁判では加害者にとっても望ましい処遇であると判断され、実刑判決が言い渡される可能性が高まる可能性があるかもしれません。

なお、実際に拘禁刑が導入されるのは2025年6月1日からです。

それまでは、不同意わいせつ罪には6ヶ月以上10年以下の懲役刑が科せられることとなっています。

(3)不同意わいせつ罪の時効

不同意わいせつ罪には公訴時効があり、時効期間は犯罪行為が終わったときから12年です(刑事訴訟法250条3項3号)。

ただし、被害者が18歳未満の場合は、犯罪行為が終わったときから被害者が18歳未満になるまでの期間が時効期間に加算されます(同条4項)。

公訴時効とは、犯罪行為が終わってから一定の期間が経過した後は、検察官が起訴できなくなる制度のことです。

不同意わいせつ罪を犯した加害者も、上記の期間が経過すると罪に問われることはなくなります。

ただ、基本的に12年という長い期間にわたって罪に問われるおそれがあるので、公訴時効を期待して逃げ隠れするのは得策とはいえません。

2、不同意わいせつ罪と強制わいせつとの違い

不同意わいせつ罪と、かつての強制わいせつ罪との違いについて、さらに詳しくみていきましょう。

(1)暴行・脅迫、心神喪失・抗拒不能の要件が見直された

かつての強制わいせつ罪では、暴行・脅迫を用いることが要件とされていました。

準強制わいせつ罪では、被害者が心身喪失・抗拒不能の状態にあったことが要件とされていました。

つまり、被害者の抵抗が著しく困難な状態でなければ、強制わいせつ罪は成立しなかったのです。

しかし、不同意わいせつ罪ではこれらの要件が見直され、わいせつ行為に同意しない意思を形成し、表明し、もしくは全うすることが困難な状態にあったことが構成要件とされました。

この改正が行われた理由は、従来の強制わいせつ罪の規定では、被害者がわいせつ行為を拒否したくてもしにくい事情があったり、そもそも抵抗できない状況であったりしても、抵抗していなければ加害者を処罰できないという批判があったからです。

不同意わいせつ罪が新設されたことにより、被害者がわいせつ行為に本心から同意した場合でない限り、処罰されるおそれがあるということになります。

(2)配偶者間の行為への適用が明文化された

今回の刑法改正では、婚姻関係の有無を問わず、不同意わいせつ罪の規定が適用されることが明文化されました(刑法176条1項)。

かつての強制わいせつ罪においても、実務上は夫婦間のわいせつ行為であっても相手の同意がない場合は処罰対象とされてきました。

今回の改正で明文化されたことにより、夫婦間でも強制わいせつ罪が成立しうることを国民に対して明確に周知する意味があるといえます。

(3)性交同意年齢が引き上げられた

従来の強制わいせつ罪では性交同意年齢が13歳以上とされていましたが、不同意わいせつ罪では16歳以上に引き上げられました(刑法176条3項)。

この改正が行われた背景として、未成年者がSNSなどで見知らぬ大人と出会い、性被害に遭うケースが増加したことが挙げられます。

高校生以上になると、ある程度は性的行為について適切な判断が可能となりますが、中学生では適切な判断が難しいと考えられます。そこで、16歳未満の子どもを保護するために性交同意年齢が引き上げられたのです。

(4)公訴時効期間が延長された

従来の強制わいせつ罪の公訴時効期間は7年でしたが、前述のとおり、不同意わいせつ罪の公訴時効期間は12年に延長されました。

その理由は、性被害に遭っても被害者が羞恥心や自責の念を抱えたり、報復を恐れたりして被害を訴えるまでに長い年月を要するケースも多いことから、7年では短いという批判があったからです。

そのため、今回の刑法改正に伴い、刑事訴訟法の公訴時効期間に関する規定も改正され、2023年6月23日から公訴時効期間が上記のとおり延長されました。

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