最高裁を侵食する巨大弁護士事務所 東電原発訴訟で明らかになった「不都合な真実」とは

最高裁を侵食する巨大弁護士事務所 東電原発訴訟で明らかになった「不都合な真実」とは

●巨大法律事務所と最高裁判所の「深い関係」

訴訟を取材していると、東電の態度は明らかに、事故直後から変わってきている。代理人には5大と言われる法律事務所がつき、被災者に対して冷徹な対応が目立つと感じるようになった。(詳細は拙著『東京電力の変節』を参照)

津島訴訟で原告側代理人を務める大塚正之弁護士から、この巨大法律事務所と最高裁の関係について話を聞いたのは2023年5月のことだった。大塚弁護士はかつて東京高裁の判事を務め、最高裁事務総局の局付の経験もある。

このことを月刊誌『経済』に発表すると、特に弁護士や学者など法律の専門家から大きな反響があった。「自分のかかわる訴訟での相手側弁護士の素性は知っている。しかしローファーム、最高裁、東京電力のつながりがこれほど深く広いものになっていることに初めて気づかされた」「ローファームが接着剤になって、あちこちをくっつけた結果、あってはならない癒着関係を作ってしまったのではないか。いつの間にこんなことに、という衝撃があります」等々の意見や感想が寄せられた。

2022年6月17日、最高裁第2小法廷は、4つの福島第一原発事故避難者訴訟で「国に責任はない」という判決を言い渡した(以下、6・17最高裁判決)。菅野博之裁判長、草野耕一判事、岡村和美判事の3人が「国に責任はない」という多数派となり、三浦守判事だけが「国に責任がある」という少数意見を出した。

菅野裁判長は、判決から2カ月たたないうちに定年退職し、長島・大野・常松法律事務所の顧問に就いている。同事務所は、600人以上の弁護士が所属する巨大ローファームだ。所属弁護士は、現在、東京高裁で争われている東京電力株主訴訟で東京電力側の代理人を務めている。また、岡村判事も弁護士になった直後、長島・大野法律事務所(当時)に所属した経験がある。草野氏は、最高裁判事になるまで15年間にわたって、西村あさひ法律事務所の代表パートナーを務めていた。ここも所属弁護士800人以上と日本最大規模だ。

東電は、この訴訟で上告する際、元最高裁判事・弁護士千葉勝美氏の意見書を提出した。千葉氏は判事を退職した後、西村あさひのオブカウンセル(顧問)に就任している。さらに千葉氏が、最高裁事務総局行政局参事官を務めていたとき、菅野裁判長も事務総局行政局に所属していた。菅野氏は、千葉氏の指導を受ける立場だったのだ。

他にも西村あさひパートナーの新川麻弁護士は東電の社外取締役で、経済産業省エネルギー関連審議会の委員や専門委員を歴任している。

2014年に大飯原発差し止め判決を出した元福井地裁判事樋口英明氏は、最高裁からことあるごとに「裁判官は公正であるのは当たりまえ。『公正らしく』あらねばならない」と言われていたという。「国に責任はない」と判決を下した第2小法廷の多数派意見の判事たちと東電と縁の深い巨大法律事務所の関係は、「公正らしく」見えるだろうか。

●原子力規制庁から東電代理人になるのは「問題ない」

近年急速に所属弁護士の数を増やし、4大と言われていた巨大ローファームの5番目として仲間入りを果たしたのがTMI総合法律事務所だ。

同事務所の前田后穂弁護士は、2017〜2021年、原子力規制庁に勤務し、津島訴訟などで国側の代理人を務めた。そして同庁を退職直後、TMIに所属し、津島訴訟の東電側代理人となった。規制庁は、福島第一原発事故で、それまでの規制機関が電力会社の「虜」となっていて機能を果たせなかったことという反省の下、独立性の高い新たな原発規制機関として設立された原子力規制委員会の事務局だ。

「規制する側」の職員が、退職したとたん「規制される側」の代理人になることに問題はないのか。

このことについて、TMI総合法律事務所に問うと、「東京電力の訴訟代理人への就任について、原子力規制庁及び東京電力の双方から承諾を得ているとのことです。したがいまして、貴殿からご指摘いただいた問題は生じないと考えられますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします 」との回答があった。

一方、原子力規制庁は、こう回答した。「前田氏の東京電力の訴訟代理人への就任について、当庁が、前田氏やTMI 総合法律事務所と合意した事実はない」。 果たしてどちらの言い分が正しいのか。

「原子力規制委員会設置法付則六条3」にはこう書かれている。「原子力規制庁の職員については、原子力利用における安全の確保のための規制の独立性を確保する観点から、その職務の執行の公正さに対する国民の疑惑又は不信を招くような再就職を規制することとするものとする。」

前田氏の人事は、この付則に反することにならないか。原子力規制庁の回答はこうだ。

「TMI 総合法律事務所は、国家公務員法で再就職について規制されている利害関係企業にはあたらないことから、退職者がTMI 総合法律事務所に再就職することについて国家公務員法上の問題は無いと考えている。また、原子力規制庁長官官房人事課で平成28年に原子力規制委員会職員の再就職規制の考え方について整理し、職員に周知しているが、その考え方に照らしても問題は無いと考えている。」 法的にも、原子力規制庁内部の規則でも問題ないという内容だ。  

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