「恩人の死」きっかけに塾講師から転身…"令和初の保険会社"つくった弁護士の実感「資格がビジネスで武器になる」

「恩人の死」きっかけに塾講師から転身…"令和初の保険会社"つくった弁護士の実感「資格がビジネスで武器になる」

●実感した弁護士に対する「社会的信用」

元々、独立志向が高く、経営者としてやっていきたいと考えていたため、弁護士になって早々に勤務先の法律事務所から独立。自宅アパートのワンルームを事務所として登録した。

「本当に早く独立したのでお金もなく、事務所なんて借りられませんでした」

最初は国選弁護の案件を引き受けた。案件をもらうために毎朝「法テラス」に並んだ。一緒に並ぶ”同志”が多い時はくじを引く。週に1件でも受任できれば、生活できるだけの収入にはなった。独立して半年もしないうちに溜池山王に小さなオフィスを借り、2年目には事務所で弁護士を雇うまでに成長した。

「独立してからは経営者が集まる場に積極的に参加することを心がけました。私の考える社会正義の話なども含め、ざっくばらんにいろいろお話しできる関係を築き、そのうえで顧問契約していただいていると思います。今では経営者に寄り添える弁護士に多少なりともなれていると思います」

さらに、スタートアップを含めた中小零細企業が気軽に弁護士に相談できる仕組みを作ろうと、欧米で普及していた”弁護士費用保険”を日本でも定着させようと計画。2019年に令和初の保険会社を立ち上げた。

現在は、保険会社を事業譲渡し、新たに一般社団法人X-Legal協会を立ち上げ、AIなどの先端テクノロジーを使った法務サービスを市民・企業が安心して使えるようにするための活動をおこなっている。AIを活用した弁護士・企業向けコミュニティサイト「LAWBO」の開発がその一つの成果だ。

多田弁護士は、自身で起業してみて弁護士の「社会的信用の高さ」を痛感したという。

「起業したら、役所・金融機関とのやり取りや大企業とのアライアンスのために『偉い人』に会いたい場面が多くあるのですが、弁護士の肩書きがあると、多くの人が会って話を聞いてくれます。そのたびに弁護士という職業に対する社会からの信頼を実感します。弁護士資格はビジネスでも大きな武器になるのです。

ビジネスはすべて契約の集合体ですから、ルールや法律に精通した人が経営陣にいれば、コンプライアンス遵守に役立つだけでなく、クリエイティブな思考で新たなビジネスモデルを構築することにも寄与するでしょう。

また、ビジネスの現場では時に必要なリスクを冒すことも重要。そのときに適切にリスク評価をすることが求められますが、法律家としての知識や経験が最も活かされる場面なのです。実は弁護士は、経営者にものすごくフィットした職業でもあるのです」

また、学習塾でたくさん接点のあった「子ども」たちに寄せる気持ちも強い。

「今では、私が所属している第二東京弁護士会には、都内の小中高校から、法教育やいじめ予防の出張授業のオファーが殺到しています。最近は、いじめ事案に関する第三者調査委員会や、スクール・ロイヤーなど、子どもや学校の問題に携わる弁護士の役割・期待が非常に高まっています。

ビジネスと並行してこうした社会活動にも自由に参加できることが弁護士の魅力。市民や企業と弁護士の距離をもっと身近にして『二割司法』を解消するために、さまざまな取組みにこれからも果敢に挑戦していきたいと思います」

●「もっと多くの若い人や社会人に弁護士を目指して欲しい」

多田弁護士は、法曹養成の問題にも取り組んでいる。ロースクールと法曹の未来を創る会(代表:久保利英明弁護士)の事務局次長を10年務め、ロビイングなど、さまざまな活動をおこなってきた。昨年は『弁護士のすゝめ』(宮島渉弁護士との共著)を出版するなど、弁護士という仕事の魅力を発信し続けている。

「ビジネス分野でも人権活動でも、まだまだ弁護士が足りていないと感じます。多様なバックグラウンドを持つ多くの人材を法曹として輩出するために法科大学院制度ができたわけですから、後戻りせずもっと前に進むべきです。

平成の司法改革以降では、今最も各界からそのような声が高まっているのを実感します。私たちは今を『令和の司法改革』の始まりであると位置づけています。

弁護士という仕事は大変魅力的で、活躍の場が無数にあることを若い人や社会人の皆さんに発信し、ロースクール・司法試験を目指してほしいと考えています。特に一度社会に出た人こそ、法律を学べば社会との関わりが実感できて面白く感じてもらえるはずです。学部生のときにあれだけ法律がつまらないと思っていた私が、一度社会に出たら、ロースクールでの授業が面白くて仕方なかったのですから」

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「専門家を、もっと身近に」を掲げる弁護士ドットコムのニュースメディア。時事的な問題の報道のほか、男女トラブル、離婚、仕事、暮らしのトラブルについてわかりやすい弁護士による解説を掲載しています。
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