
長崎県五島市の五島観光魅力向上推進協議会は、世界文化遺産登録後の「五島列島」にて、地域固有の文化や信仰を尊重し、持続可能な観光を目指す「ヴァナキュラー・ツーリズム」を本格始動。土着の歴史や伝統・文化・芸術・自然など、地域に当たり前にあるものの価値を参加者と共有していくようなツアー体験を提供している。
「祈りと暮らし」を継承する新たな観光モデル
「ヴァナキュラー・ツーリズム」の第一弾は、隠れキリシタンの歴史が色濃く残る奈留島(なるしま)での、対話型・課題解決型のツアーだ。

江上天主堂 写真:宮脇慎太郎氏
「五島列島」は、潜伏キリシタン関連遺産として世界文化遺産に登録され、国内外から多くの観光客が訪れている。しかし、船で教会建築を巡る短時間回遊型ツアーが中心となり、島内での消費や交流が限定的で、既存観光が地域経済や暮らしに十分な恩恵をもたらしていないという課題があった。また、対応できる人数と反比例して体験価値が薄くなってしまうという課題もあった。
そこで、島の生活文化や信仰の歴史、隠れキリシタンの末裔が語り継ぐナラティブ(物語など)に焦点を当て、地域に滞在して地域経済への還元と持続可能性を両立する体験型の観光を用意した。「観光」とは「光を観る」と書くが、光の当たらない影の部分である“生活、祈り、葛藤、継承”にも丁寧に目を向ける、新たな観光だ。
体験や物語を通じて地域を理解する

五島の風景 写真:宮脇慎太郎氏
五島観光魅力向上推進協議会が唱える「ヴァナキュラー・ツーリズム」とは、その土地固有の暮らし、文化、精神性を尊重し、地域の語り手と来訪者が対話を通じて価値を共有する観光のあり方を指す。モノや名所の消費ではなく、体験や物語を通じて地域を理解することで、観光と生活のあいだに持続可能な関係を築くことを目指している。
2025年にリサーチを重ね、奈留島の隠れキリシタン末裔との対話から、奈留島にまつわるツアーコンテンツの発掘と開発に着手。継承されていた隠れキリシタンの儀式の道具に出合い、長崎県世界遺産課の学芸員、平戸市生月町(いきつきちょう)博物館「島の館」の館長と共に調査を行なった。
