元夫との旅行から戻った息子の姿に安堵する、真由。真由は、たのしかった結婚当初の思い出と、不倫発覚時の記憶がよみがえり、複雑な感情を胸に抱いていた…。
結婚当初を思い出してしまう
旅行から帰ってきた、翌日。
洗濯機を回しながら、私は小さなリュックの中身を一つずつ取り出していた。
砂の入ったくつ下。しわくちゃの遊園地のパンフレット。お土産のキーホルダー。
「ママ! パパとのったジェットコースター、こわかったけど、おもしろかった!」
陽向は、昨日のできごとを何度も話す。その声を聞きながら、胸の奥に、ぽっと灯るものがあった。
(たのしそうで、よかった)
そう思う反面、別の感情がゆらりと顔を出す。どうしても思い出してしまうのだ。健吾と、まだ“夫婦”だったころのことを…。
健吾との結婚生活は、最初は本当にたのしかった。
外食に行けば、店員さんともすぐ打ち解けるし、友だちを呼べば場が盛り上がる。私が落ち込んでいると、くだらない冗談で笑わせてくれた。
「真由はさ、考えすぎなんだよ」
そう言って、頭をぽんと叩かれるのが、くすぐったくてうれしかった。たよりになる人で、私にはないものを、たくさん持っていた。妊娠が分かった時も、健吾は泣いてよろこんだ。
「絶対、いいパパになるから!」
あの時の笑顔は、今でもはっきり思い出せる。でも──少しずつ、何かが変わっていった。
少しずつこわれていった日常
おなかが大きくなるにつれ、私は不安が増えていった。
体調も安定しない。将来のことも考える…。なのに、健吾は相変わらず飲み会や友だちからの誘いに出向いていた。
「つきあいだから」
その言葉を、何度聞いただろう…。
出産時、立ち会いはしてくれた。でも、どこか“他人事”のような空気を感じた。
陽向が生まれてからは、さらに距離ができた。
夜泣きで眠れない日々…。私はボロボロで、髪も振り乱していた。それでも健吾は、スマホをいじりながら言った。
「俺、明日、早いから」
陽向が1歳を過ぎたころには、ほとんど目を合わせなくなっていた。抱っこも数えるほどで、休日も「ちょっと出かけてくる」と言って帰りがおそい。
(…おかしい)
そう思ったときには、もう心のどこかで答えは出ていた。
──不倫。
うたがいたくなかった。でも、証拠がなければ、私は前に進めなかった。
探偵事務所のドアを叩いた日のことは、今でも忘れられない。ふるえる手で契約書にサインをした。
数週間後、わたされた写真。見慣れた背中が、知らない女性とならんで歩いていた。世界の音が、すべて遠のいていくように感じた。その後、弁護士を立てて話し合いをした。
健吾は最初、言い訳をした。
「本気じゃなかった」「魔が差しただけ」
でも、私の中で何かが、完全に折れていた。陽向を抱きしめながら、私は決めた。
このままでは、笑えない。この子に、こんな空気を吸わせたくない。離婚届に判を押した日、涙は出なかった。ただ、空っぽな感情だけがそこにあった。

