きらいになれない…それが厄介
洗濯機の終了音で、現実に引き戻される。
ふと気づくと、ほほがぬれていた。たのしかった思い出と、苦しかった記憶が、ぐちゃぐちゃに絡まっている。
「ママ?」
小さな声が足元から聞こえた。見上げると、陽向が心配そうな顔で立っている。
「どうしたの?」
あわてて涙を拭う。
「パパとバイバイしたから、かなしいの?」
その一言に、胸がぎゅっとしめつけられる。
(ちがう。悲しいのは、もっと昔のこと)
でも、それをこの子にどう説明すればいいのか分からない。
私は、少しだけ笑った。
「……そうかもね!」
泣き笑いのまま、陽向を抱きしめる。
傷つけられた過去は、たしかにある。あのころの痛みは消えていない。
それでも、離婚後、父親として変わろうとしている健吾を見ると、完全にきらいになれない自分がいる。それが一番、厄介だった。
陽向の背中をなでながら、私は思う。私はまだ、あの人との思い出を、きれいに“過去”にできていないのかもしれない。
あとがき:「きらいになれない」は未練なのか
うらぎられた過去があっても、たのしかった記憶まで消えるわけではありません。人を完全にきらいになることの方が、実はむずかしいのかもしれませんね。
ゆるしたいわけではない…。なかったことにもできない。そのゆらぎは、弱さではなく、真剣に向き合った証なのではないでしょうか。真由の心は、まだ整理の途中にあります。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
記事作成: tenkyu_writing
(配信元: ママリ)

