離婚から2年後に出会った直人は、息子・陽向の存在も、過去の傷も静かに受け止めてくれる誠実な人。おだやかな時間を過ごす一方、真由は、元夫・健吾の陽気さとくらべてしまい、優しさだけでは埋まらない、小さな違和感を抱き始めていた。
まよいを打ち明けた昼下がり
「で、どうなの? 正直なところ」
向かいに座る美咲が、コーヒーカップを置きながら言った。
平日の昼間。久しぶりに有給を取り、駅前のカフェでランチをしている。陽向は保育園。こんなふうに美咲とゆっくり話すのは、いつぶりだろう。
美咲は学生時代からの親友で、私の結婚も離婚も、全部知っている。探偵事務所に行く前夜、泣きながら電話した相手も彼女だった。
私は、フォークをにぎったまま、少しまよってから口を開く。
「……健吾がさ、ちゃんとお父さんしてるのを見ると、なんか…」
言葉がうまくまとまらない。
「ゆれる?」
図星を突かれて、苦笑する。
「……うん」
旅行のこと。陽向と笑い合う姿。昔みたいに自然に話せる空気。そして、直人とのおだやかな時間の中で感じる、ほんの少しの物足りなさ──全部、彼女に正直に話した。
美咲は、途中で一度もさえぎらなかった。だまって聞いて、最後に小さく息を吐く。
「…健吾さん、変わったよね」
「……うん」
それは、私も認めている。父親としては、本当に誠実になった。約束を守るし、陽向を大切にしている。
「でもさ……」
美咲は、まっすぐ私を見る。
「真由が泣いた夜のこと、忘れてないからね、私」
「父親」と「夫」は別の話
「妊娠中に放置されたことも…陽向くんが熱を出してるのに、飲み会行ったことも」
思い出したくない場面が、鮮明によみがえる。
「あの人、明るいけどさ…自分中心なところあったよね?」
(否定できない)
いつも、あいまいな笑いでごまかす。自分が正しいと信じてうたがわない。私の不安を「考えすぎ」で片づける。健吾は、私の悩みに、真剣に向き合ってくれたことがあっただろうか…。
「不倫もそうだけどさ…ああいう人って、根っこは変わらないと思うんだ」
美咲の声は冷静だった。責めるでもなく、感情的でもなく、ただ、事実をならべるように。
「父親としてはいいかもしれない。でも、夫婦として、真由がしあわせになれるかどうかは、別問題じゃない?」
彼女の言葉が、静かに刺さる。私は視線をおとした。

