こうした背景の中、児童精神科医でYouTubeなどでも活動する「精神科医さわ」さんは、診断名ではなくその子ひとりひとりの発達のユニークさを見る視点や、怒らない工夫・環境調整の重要性を発信し、家庭で悩む親たちの支えとなっています。自身も発達ユニークな二児を育てる母でもある精神科医さわさんに、発達ユニークな子どもとの向き合い方を聞きました。
■娘が1歳のときに感じた「あれ? みんなと違うのかも?」

(精神科医さわさん:提供写真)
ーーさわさんは昨年発売した書籍『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社)で、あえて“発達障害”ではなく“発達ユニーク”という言葉を使っています。
精神科医さわ(以下、さわ) 私には二人の娘がいるのですが、どちらも発達障害の診断を受けています。長女はASD(自閉スペクトラム症)、次女はADHDとLD(学習障害)の診断です。発達障害はとても身近なものでしたが、取材などで娘たちのことを説明するときに、診断名をそのまま並べて話しても、みんながその意味を理解できるわけではありませんし、私自身もしっくりこない部分がありました。
そんなとき、「うちの子たちは発達がユニークなんだよね」という言葉が、ある日ふっと自分の中に降りてきたんです。その瞬間、この言葉がいいなと心から思えました。そもそも、私たち人間は誰一人として同じ発達をたどりません。たとえ双子であっても、話し始めるスピードも、背が伸びるスピードも違います。人間はみんな唯一無二で、まったく同じ発達段階をたどる人はいないというのが私の考えです。
その中で、特性のユニークさによって困りごとが生じ、サポートが必要な人に“発達障害”という診断名がつくだけで、根本的にはみんなユニークな存在であることに変わりはないんです。そのことを伝えたくて、この言葉を本のタイトルにも使いたいと思いました。
ーーお子さんの発達がユニークだと気付いたのはいつごろでしたか。
さわ 長女の発達に違和感を覚えたのは、実は幼稚園よりもっと前、1歳ごろのことでした。きっかけは、当時仲良くしていた先輩ママの、何気ない一言でした。「さわさん、子育てめっちゃ大変だね。よく頑張ってるね。娘ちゃんの子育て、大変でしょ?」と言われたんです。その一言でふと、「あれ? みんなと違うのかも?」と気づかされたような感覚がありました。
当時の娘は、思い通りにならないと床にひっくり返って泣き叫んだり、その泣き方もどこか普通じゃない気がしていました。医学的知識はあっても、初めての育児では「何が普通なのか」が本当に分かりませんでした。私も他のママと同じように、Googleで「1歳 寝ない 発達障害」「1歳 寝ない てんかん」などと検索しながら、自分なりに手探りで育てていました。その先輩ママの一言が、「もしかしたら定型発達じゃないのかもしれない」という気づきにつながりました。
■1時間おきの夜泣きに隣人からの苦情

(※画像はイメージです)
さわ 娘はとにかく寝ない子で、夜中に1時間おきに泣き叫ぶ。私たちは当時アメリカに住んでいたのですが、毎日のように隣人から苦情が来ました。最終的には、「ベッドルームでは寝かせないでほしい。別の部屋で寝かせてくれ」とまで言われました。ベッドはひとつしかないし、泣き叫ぶ娘を抱えて、寝不足で自分も追い込まれていきました。
夫は研究留学で朝4~5時に家を出て、夜11時に帰ってくる生活で、実質ワンオペでした。娘をベッドに叩きつけてしまいそうになる瞬間もあり、「虐待って他人事だと思ってたけど、他人事じゃないな」と、本当に怖かったのを覚えています。
ーーそれは本当に大変でしたよね。現在は愛知県名古屋市で心療内科・精神科・児童精神科のクリニックを開いていますが、日々の診療やSNSでの発信に対する反応で、発達障害という言葉への誤解を感じることはありますか?
さわ 「発達障害と診断されると、障害者になったみたいで嫌だ」「診断を受けたくない」という相談を受けることが多いのですが、これは一番大きな誤解だと感じています。発達特性の程度はスペクトラム(境界線が明確でない状態)で、濃淡があります。特性が濃くて日常生活に支障がある場合は必要に応じて障害認定を受けることもありますが、特性が薄い場合は障害認定はおりませんし、そういう人は大勢います。
そもそも医療現場では現在“発達障害”という言葉はあまり使わず、正式には「神経発達症」と呼びます。ただ、一般の人が理解しやすいので、私はYouTubeなどでは便宜上“発達障害”と呼んでいます。
診断名がついたからといって、その子自身が変わるわけではありません。太郎くんは太郎くんのまま、花子ちゃんは花子ちゃんのまま。特性はその子の一側面に過ぎない、ということを知ってほしいです。
