■ADHDの子が「怒られやすい」理由

『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』
ーー発達ユニークなお子さんは、本人は頑張っているのにそれに気づいてもらえず、「頑張りが足りない」「甘えている」などと悪く評価される場面もあります。
さわ そうですね。たとえばADHDの子は、じっと座っていることすら大変です。定型発達の子が苦もなくできることが、彼らにとっては生まれ持った特性上、とても難しい。集中力の持続時間が生まれもって違うんですよね。「みんなと同じにすることが、そもそもとても頑張っている状態なんだ」ということです。にもかかわらず、「怠けている」「やんちゃしている」と誤解され、家庭でも学校でも怒られやすい子たちです。
ーー保護者が適切なサポートを試みていても、周囲から「甘やかし」「しつけ不足」と誹りを受けることもありますよね。
さわ 学習面がやっぱりわかりやすいと思うのですが、たとえば私の娘は学習障害があって、読み書き計算全部苦手なタイプ。一回見た文字を覚えて文字に起こすことができないので、漢字テストは書きではなく読みのテストに変えてもらうなど、合理的配慮を受けています。
もしかしたら、みんなより10倍、20倍……100倍時間をかければ彼女もできるようになるかもしれないし、それを「甘え」だという人はやっぱりいますよね。
だけど無理にやらせようとするのではなくて、その子に合ったテストにするというのは、やっぱり必要な支援じゃないかと私は思います。本当にどう教えてもできないことがある。だからこそ、その子が努力した「過程」を大人がちゃんと見てあげることが大切だと感じています。
ーー発達ユニークな子に対する声かけで、気を付けたいことを教えてください。
さわ 根本的に、発達ユニークな子の子育てと定型発達の子の子育てで、本当に大事なことは何も変わらないという前提ですが、特に気をつけて欲しいのは「とにかく怒らないでください」ということです。まったく怒らない、叱らないことが正しいというわけではありませんが、特にADHDのお子さんは非常に怒られやすく、わざと悪いことをしているわけではないのに怒られ続けたら、自己肯定感はどんどん下がってしまいます。だから私は、「とにかく怒らないであげてください」と伝えています。
それでも「危ない!」「やめて!」とか、咄嗟に大きな声で止めなければならない場面はありますよね。だから仕組みを整えてあげる必要があると思います。
■変えるべきは「子ども」ではなく「仕組み」

(※画像はイメージです)
ーー仕組み化が大事なのですね。どのような「仕組み」が必要なのでしょうか。
さわ 何かが「できない」というとき、大人はつい「その子を変えよう」としてしまいがちです。たとえば、椅子にじっと座っていられない子を、我慢して座れるようにしようとする。でもそうじゃなくて、じゃあその子が興味のあるものを机の上に置いてあげて“座りやすい仕組み”を整える。子どもを変えるのではなく、仕組みや環境を変えてあげるという視点がすごく必要だなと思いますね。
ーーそれでもやはり、どんなお子さんでも、保護者が叱らざるを得ない場面は出てくると思うのですが、どんな点を意識すると子どもの自己肯定感を守れるでしょうか。
さわ 感情的に怒ってしまったら、できるだけ早く謝ることです。私自身も、駐車場など危険が伴う場面では大きな声を出してしまうことがあります。また、本当は落ち着いて説明するのが理想でも、親も余裕がなく感情的になってしまうことがありますよね。そんなときは、できるだけ早く「さっきは大きな声で怒ってごめんね」と謝るようにしています。翌日でもいいので、きちんと謝ることが大切です。親も子どもと一緒に成長していけばいいんです。
ーー「親も一緒に成長していけばいい」という言葉に救われます。「子どもの困難は、自分の育て方のせいではないか」と悩んでしまう保護者もいると思います。先生だったら、そうしたふうに悩む親御さんに、どんな言葉をかけますか。
さわ 子育てって自分がやってみないとわからないじゃないですか。私も、「何で誰も教えてくれなかったんだろう」と思ってしまったことがあります。こんなに夜も眠れないものだって教えてほしかったな、とか(苦笑)。でも親も初めて親になるので、できなくて当然なんですよね。トライアンドエラーで、「やってしまった」と思ったらそれを少しずつ修正していけばいい。
母親というのはひとつの大切な役割ではありますが、親である前にやっぱり1人の人間で、休むことも必要ですし、自分のすべてを犠牲にして子どもに尽くさなければならないわけではありません。人それぞれ方法は違うと思いますが、自分の心を休める方法を知っておいてほしいと思います。
また、親は子どもを案ずるがあまり「こうしたほうが、ああしたほうが」と先回りして考えがちですが、親と子はまったく別の人格。親が良いと思うことがその子にも本当にいいかはわからないですし、その子が何を感じて、何をしたくて、何が楽しくて、何を喜びと感じるのか、子どもが主体的に生きることを応援できることがすごく大事です。そのためには、根拠がなくてもいいから、親が「きっとこの子は大丈夫だ」と思えることが大切だと思います。
児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること
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データ出典:通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について
(取材・構成 マイナビ子育て編集部)
児童精神科医精神科医さわ塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師。1984年三重県生まれ。開業医の父と薬剤師の母のもとに育ち、南山中学校・高等学校女子部、藤田医科大学医学部卒業。勤務医時代はアルコール依存症など多くの患者と向き合う。発達ユニークな娘2人をシングルで育てる母でもあり、長女の不登校と発達障害の診断をきっかけに、「同じような悩みを持つ親子の支えになりたい」と2021年に塩釜口こころクリニックを開業。開業直後から予約が殺到し、現在も月に約400人の親子を診察。これまで延べ5万人以上の診療に携わる。患者やその保護者からは「同じ母親としての言葉に救われた」「子育てに希望が持てた」「先生に会うと安心する」といった声が多く寄せられ、「生きる勇気をもらえた」と涙を流す患者さんも多い。YouTube「精神科医さわの幸せの処方箋」(登録者数10万人超)、Voicyでの毎朝の音声配信も好評で、「子育てや生きるのがラクになった」と幅広い層に支持されている。著書にベストセラー『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)、『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社)、監修に『こどもアウトプット図鑑』(サンクチュアリ出版)がある。→記事一覧へ
