事前予想に反し、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が連日、世間を席巻している。当初は米動画配信大手Netflixによる独占配信ということもあり、「視聴者数が限定され、盛り上がりに欠けるのではないか」との懸念もあったが、結果としてそれは杞憂に終わった。
しかし、かつてテレビ局に身を置いた人間からすれば、この事態は重い。WBCのような国民的ビッグイベントすら地上波で放送できない時代に突入したのかと、暗澹たる思いを禁じ得ない。
これに呼応するかのように、今、テレビ業界ではアナウンサーや一般社員の退職が相次いでいる。この現象は、単なる個人のキャリアアップの話ではない。いくつもの構造的な問題が地層のように積み重なり、現在のテレビ業界が置かれた危うい立ち位置を浮き彫りにしているのだ。(テレビプロデューサー・鎮目博道)
●相次いだ人気アナの退職
テレビ局からアナウンサーの「流出」が止まらない──そんな声が業界内で話題になっている。
直近では2月12日、フジテレビの小澤陽子アナ、勝野健アナの両名が退社を報告。2024年8月の渡邊渚アナ以降、同局ではわずか1年10カ月の間に(定年退職を除いて)8人ものアナウンサーが社を離れたことになる。
フジテレビといえば、元タレントの中居正広氏をめぐる問題が起きた。一般の人から見れば、そうした問題が続いたことで、アナウンサーたちが会社に嫌気がさしたのではないかと思われるかもしれない。
もちろん、それも一因ではあるだろう。だが、事態はより広範囲に及んでいる。
日本テレビでも3月に岩田絵里奈アナが退社を発表し、2023年以降で8人が退職。「フジテレビ一局」の問題に留まらないのが現状だ。
さらに言えば、退職者はアナウンサーに限らない。エース級のプロデューサーや記者も続々と社を離れている。転身先も大手芸能事務所だけでなく、まったく異なる業種を選択するケースがここ数年で顕著に増えている。
●「改革の方向性が見えない」フジテレビの焦燥
まずは、最も表層にある問題から見ていこう。「フジテレビ」そのものの話である。
「フジテレビ問題」を契機に、同局はいま大きな変革の真っ只中にある。当初は「本当にフジテレビは変われるのか」と疑いの目も向けられていたが、どうやら経営陣はかなり本気のようだ。
つい最近では、4月期に「4割近く」に及ぶ大改編を予定していることも話題になった。また、「バラエティ人脈が中枢を占める体制」は、清水賢治社長の登場によって一掃された。これに伴って、アナウンサーに限らず、多くの人材がフジテレビを去っているという。
変わること自体はたしかだ。しかし、それが本当に良い方向なのかはまだ見えない。守りに入っているようにも見えるし、コスパばかりを重視しているようにも見える。
業界内で定説のように言われているのは「フジテレビの変革の方向性が読めない」という不安だ。
「この方向性で面白い番組が生まれてくるのだろうか」 「どこへ行ってしまうのかフジテレビ」
そんな不安感の中で、「このままフジテレビにいても明るい未来は見えないのではないか」と考える人が局を去っているようだ。単純に「フジテレビ問題に嫌気がさした」という説明とは、少し温度感が違うと言える。

