別居して一年…平穏を手に入れた春子。しかし、久々に訪れた義実家は、「春子」という防波堤をうしない、ヒザまでゴミが迫る惨状に…。義父は転倒してケガを負うが、節子は「自分の宝物にかこまれてしあわせ」だと笑い、現実を認めない。
あたらしい生活は順調だった
別居して一年が経過しました。
私たちは、義実家から車で15分ほどの距離にある、日当たりの良いマンションにうつり住みました。
そこには、床が見えるリビングがあり、洗面所には必要なものだけがならんでいます。
私は自分のペースで家事をこなし、新を安全なフローリングで自由に遊ばせることができました。
近所のスーパーでパートの仕事も始め、同僚と笑い合う余裕も生まれました。精神状態は劇的に回復し、あんなにくるしかった動悸も、いつの間にか消えていました。
ところが、義実家の様子をたまにのぞきに行くと、私の想像をはるかに絶するスピードで悪化していました。
「……これ、どこに足を置けばいいんだ?」
夫の敦朗ですら、玄関のたたきで立ち尽くしました。
久々の義実家にがく然…
同居していたころは、私が毎日必死に「人間の通る道」を確保していました。
しかし、今や、その防波堤は決壊。
ゴミと不用品の山がヒザの高さまで迫り、玄関からリビングへと続くろうかは、まさに「けもの道」のようなほそいスキマしかのこっていませんでした。
「父さん…大丈夫なの? これ、さすがに生活できないでしょ」
リビングに入ると、義父の正雄さんが、山積みの古新聞と古着のスキマに体を丸めて、小さなテレビを見ているのが見えました。
「母さんが"これは私にとっては宝物"だと言うもんで、手が出せんのだよ。へたに動かすと烈火の如く怒るからなあ。この前も、夜中にトイレに行こうとして、足のふみ場がなくてつまずいてな…はでにヒザを打ったよ」
義父がズボンのすそをまくり上げると、そこには痛々しく、黒い大きなあざが広がっていました。
「母さん!ちょっとやりすぎだよ! これじゃ病気だよ…親父、ケガしてるじゃないか!」
敦朗が、奥の部屋にいた節子さんに向かってどなりました。

