病気をうたがい、病院へと連れて行くが、診断は「異常なし」。節子の強固な価値観を前に絶望する春子たち…。しかし、春子は、節子の「孫への愛」と「所有欲」を逆手に取り、持ち物にふれない「外側」からの攻略法を思いつく。
義母の病気をうたがう
「春子…やっぱり母さんは病気だと思う。認知症の初期症状か…あるいは"ためこみ症"っていう精神的な病気なんじゃないかな……」
自宅に戻った敦朗が、真剣な顔で相談してきました。
かつては、「母さんはやさしいから」と楽観的だった彼も、実父のケガとあの異様な光景を目の当たりにして、ようやく事の重大さを理解したようです。
たしかに、普通の精神状態であれば、愛する夫がケガをしても、なお、「物をため続ける」という矛盾には、耐えられないはずです。
義父の健康ももちろん心配ですが、正直なところ、私にはもう一つの恐怖がありました。
将来、義両親に何かあった時、あの「ゴミの城」の処分を、私たちが背負うことになる…。その労力と費用を想像するだけで、はき気がしました。
「一度、ちゃんと専門の先生に検査してもらいましょう。お義父さんと協力して、健康診断だと言って連れ出すしかないわ」
検査結果は異常なし
数週間後、私たちは義母を説得し、地域の有名な「物忘れ外来」へと連れて行きました。
義父も「わしも一緒に受けるから」と付き添い、万全の体制でのぞみました。しかし、診断の結果は意外なものでした。
「……異常なし、ですか?」
医師の説明を聞き、敦朗が呆然と聞き返しました。
「ええ。記憶力も計算能力も、実年齢より高いくらいです。認知機能に目立った欠損は見られません。いわゆる"ためこみ症"の傾向はありますが、現時点では病気というより、長年の生活習慣や、片付けに対する価値観の欠如……要するに"極端に片付けが苦手な性格"という判断になりますね」
医師の淡々とした言葉に、私たちは絶望しました。
もし、病気であれば、薬やセラピーで治療の道があります。しかし、それが「性格」や「こだわり」である以上、本人の意思をムシして、法的に片付けを強制したり、施設に入れたりすることは極端にむずかしくなります。
「私の自由にして何がわるいの?」という、義母の正論をくずす手段がないのです。

