会社を退職した元社員が、業務用端末やカギなどの貸与品を返却しない──。
弁護士ドットコムに、こんな相談が寄せられました。
相談によると、退職日までに返却するルールがあるにもかかわらず、元社員は電話にも応じず、業務で使用していたスマートフォンやパソコンなども手元に残したままの状態だといいます。貸与品の総額は100万円近くにのぼるそうです。
情報流出などの二次被害も懸念される中、会社側は返還を求める民事対応に加え、刑事告訴も検討しています。
いわゆる「借りパク」のケースで、会社はどこまで法的手段を取れるのでしょうか。中村新弁護士に聞きました。
●刑事責任に問えるのか
──退職後に会社の貸与品を返さない行為は、窃盗罪や横領罪などの刑事責任を問えるのでしょうか。
まず、窃盗罪は、占有者の意思に反して財物を自分の占有に移すことを要件としています。貸与品が従業員にわたる際には会社の承諾があるため、窃盗罪は成立しません。
また、横領罪でいうところの横領行為とは、他人の物を預かっている者が委託の趣旨に背いて、所有者でなければできない処分をする意思を外部に示すことをいいます。貸与品について、転売などの処分意思が外部に現れていない段階では、横領罪の成立を認めることも難しいでしょう。
さらに、貸与品を最初から自分のものにするつもりだったと立証するのも困難なので、詐欺罪に問うことも難しいところです。
このように、単に「借りパク」しているだけの段階で、刑事罰を問うことは難しいと考えられます。
──会社側は泣き寝入りするしかないのでしょうか。
ただし、民事上の法的責任を問うことは可能です。従業員は退職とともに貸与品を所持する権限を失うので、会社は所有権に基づく返還請求をすることができます。また、従業員の責任で貸与品が破損していれば、損害賠償を請求することもできます。
●スマホやPCが返却されない場合のリスクは大きい
──貸与品の中にスマートフォンやパソコンなどの情報機器が含まれる場合、返却されないこと自体で、会社側にどのようなリスクがありますか。
最近問題となることが多いのは、貸与されたパソコンなどに企業秘密となる情報が含まれているケースです。
この場合、パソコンという「財物」としての価値よりも、情報漏えいの危険性のほうがはるかに大きな問題となります。そのため、退職後は速やかに返還させる必要があります。

