脳トレ四択クイズ | Merkystyle
ライブドア事件で直面した“取締役の責任の重さ” ガバナンス改革担う市川佐知子弁護士

ライブドア事件で直面した“取締役の責任の重さ” ガバナンス改革担う市川佐知子弁護士

コーポレートガバナンス・コードの適用から10年。社外取締役の選任が進む一方、「形骸化」を指摘する声も根強い。ライブドア事件をきっかけにガバナンス改革の道に進み、4500人超の取締役を指導してきた市川佐知子氏(BUSINESS LAWYERS AWARD 2025 ガバナンス改革部門賞、主催:弁護士ドットコム)に、日本企業の取締役会が抱える課題と実践型の役員研修の意義を聞いた。

●転機はライブドア事件

もともと多く扱っていたのは労働法務。転機となったのは、2006年のライブドア事件だった。粉飾決算が問題となったこの事件は、堀江貴文社長らに有罪判決が下るなど、社会と経済に衝撃を与えた。一方、法律面でも金融商品取引法21条の2が適用された初の重大事件という点で注目を集めた。

同条は有価証券報告書などに虚偽記載があったときの発行体の損害賠償責任を定めたもので、2004年に追加されたばかり。この規定を根拠に投資家たちが訴訟を提起し、その一部で市川佐知子氏がライブドア側の代理人を務めた。

「金融機関が当事者だとコンフリクトその他の制約が多い。そこで米国留学から帰ってきたばかりの私が担当することになりました」

それまでも虚偽記載事件での訴訟はあったが、損害額や因果関係の立証が難しく、数は少なかった。しかし、21条の2で企業や役員個人が訴えられるリスクが跳ね上がった。

「虚偽記載事件が起きると、訴訟対応で社内の機能が止まってしまう。会社を株主のものだと考えれば、虚偽記載事件は株主が株主を訴えるという構図でもあり、どちらに転んでも株主利益が損なわれ、取締役の責任の重さを考えさせられました」

コーポレートガバナンス(CG)の不在がもたらす多大なコストを痛感したのは、事件後にライブドアの社外取締役に就任したニコラス・ベネシュ氏も同様だった。意気投合した2人は、当時ほとんど意識されていなかったCGを学べる場として、2009年に公益社団法人会社役員育成機構(BDTI)を設立した。

ベネシュ氏の提唱もあり、2015年には金融庁と東証による企業統治の原則を定めたCGコードも適用され、CGへの意識が高まっていく。

●実践型研修で役員力を鍛える

BDTIでは、設立以来4500人超の取締役らを指導。市川氏はその多くで研修の設計と講師を務めている。

たとえば、実際の事件をモチーフに模擬取締役会をおこなうロールプレイ研修。アクティビストや敵対的TOBなどにいきなり対応するのは難しく、「シミュレーションであっても、1回経験しておくと心構えが違う」という構想のもとに生まれた。この研修では、参加者が演じる取締役ごとに経歴や考え方などの細かな設定があり、“際どい”やり取りが発生することもある。

「取締役会は多数決です。いくら自分がCGを理解していても、周囲と価値観を共有できないとCGの実現はできない。少数派のときに発言する心細さや、それを踏まえどう立ち振る舞うかなどは座学ではわかりません」

このほか、一般従業員らも対象にしたeラーニングコースも整備。こちらは累計1万7000人以上が受講している。

市川氏自身も東京エレクトロンやオリンパスなど大企業の社外取で、理論と実践の反復を通して研修の質を磨いてきた。近年は特に受講者のレベルアップを感じる機会が増えたといい、「企業ごとにカスタマイズした研修では、毎年参加者が違うのに年々レベルアップしている会社があります」と手応えを語る。

提供元

プロフィール画像

弁護士ドットコム

「専門家を、もっと身近に」を掲げる弁護士ドットコムのニュースメディア。時事的な問題の報道のほか、男女トラブル、離婚、仕事、暮らしのトラブルについてわかりやすい弁護士による解説を掲載しています。