●「私にしかできないこと」を
市長退任後の2021年、OnBoard株式会社を設立。主に女性の社外役員の紹介・育成などに注力する。
「市長としては2期で保育園などを54箇所つくるなど、女性が働くための『社会基盤』を整備しました。ただ、働き続けられても男女で会社内の立場が違う。今度は『社内基盤』を整えています」
背景には、市長時代に痛感した「同質性の危うさ」がある。就任直後に直面したいじめ自殺への対応では、教育委員会が「教育的配慮」という内向きの論理で再調査に抵抗。保育園の新設では、予算を削られる他部門の職員から感情的な反発を受けることもあった。「ずっと同じ組織にいると、『当たり前』を変えたくない気持ちが強くなるんですよね」
外部の視点がない組織は世間の感覚とズレていく。これは日本企業の取締役会にも通じる。そこに社外役員という形で多様な視点を取り入れるのは企業変革、イノベーションに不可欠だという。
2020年12月、松澤香弁護士と女性役員についてのセミナーを開催したところ、約200人が集まった。手応えを感じ、年明け後2人でOnBoardを起業。現在は企業出身者のほか、弁護士や会計士など、女性を中心に約2200人の役員候補を抱える。セミナーを通し、その育成や交流も図る。
内閣府男女共同参画局によると、2022年時点の東証プライム市場上場企業の女性役員比率は11.4%。2025年には17.7%に増えた。政府は2030年までに30%以上の達成を目指す。OnBoardには企業からのマッチング依頼だけでなく、候補者の登録やセミナー受講も増えているという。
最近ではAI活用にも取り組む。2025年12月には上場企業の女性役員について、有価証券報告書をもとに検索できるAI検索サービスを始めた。AIの性能を身をもって知るだけに、弁護士を取り巻く環境の激変も予感する。
「市長選への出馬を迷っていたとき、友人が『自分にしかできないことをやるべき』と背中を押してくれました。当時は、若いことや行政経験がないことをマイナスに感じていましたが、だからこそできることがあると思いました。改めて『私にしかできないこと』を大事にしなければと感じています」
弁護士、政治家、起業家—。論理、感情、数字と3つの世界を知る稀有な人物としてますます存在感が高まりそうだ。
【プロフィール】
こし・なおみ 西村あさひ法律事務所などを経て、2012年から2020年まで滋賀県大津市長。待機児童ゼロを達成する。現在はOnBoard株式会社CEOとして女性役員の育成・紹介を行うほか、三浦法律事務所パートナー、ソフトバンク社外取締役なども兼務。法律家、元首長、起業家として多角的に活躍している。

