深夜1時の電話。情緒不安定な聡里に対し、亜紀は意を決して冷静なアドバイスを口にする。しかし、それが聡里の逆鱗に触れ、「裏切り者」と罵倒されてしまい―――。
親友の電話を無視できない
聡里とカフェで話した日の深夜、私のスマホがまた震えました。それは聡里からのLINEです。愚痴を聞いたことへのお礼も書かれていましたが、それもそこそこに、話し足りなかったことが、長文で送られてきていました。
その数日後の深夜1時、今度は電話が鳴りました。「明日も仕事なのに…」と思いながらも、放っておけずに電話に出ると、これまでにないほどネガティブな雰囲気を感じる聡里の声が聞こえてきます。
「亜紀~…もう私、死にたくなっちゃうよ……。会社でみんなの前でミスをつるし上げられてさ…ひどすぎるよ…」
泣きじゃくる聡里。しかし、話を聞いているうちに、私は違和感を持つようになりました。彼女が「つるし上げだ」と主張しているのは以前から聡里を指導していた先輩がミーティングで上司に報告をしただけの話で、聡里が同じミスをしている回数も多いのです。私が聞いているだけで同じミスを何度もしているということは、きっとその先輩も困った末の相談だったのではないでしょうか。
私はとにかく共感することに徹してきましたが、今回ばかりは共感は彼女のためにもならないと思いました。そして、意を決して聡里の話を遮って声をかけたのです。
「聡里、落ち着いて聞いてほしいんだけどね。私が聞く限りそれはつるし上げではないと思うよ。先輩も聡里が同じミスを繰り返してしまうから、どうにか仕組みで解決できないか考えて上司に話してくれたんじゃないの?」
アドバイスをしたかっただけなのに
一瞬、電話の向こうが静まり返りました。冷たい沈黙が流れます。
「……亜紀は、私が悪いって言いたいの?」
「そうじゃないけど、まずはミスを謝ってから、このあとどうすればいいかを…」
「亜紀も裏切り者だね」
一瞬、聡里が何を言ったのかわかりませんでした。聡里は興奮した様子で続けます。
「なにもかも順調な亜紀にはわからないよね。私だって努力してるのに、みんなして私のミスをつるし上げて、私が悪いって言うんだよ?こんなにつらい思いしてる私が悪いってこと?」
聡里の中では自分は悲劇のヒロインで、自分の仕事への指摘は批判や否定にあたるようです。こんな後輩がいたら、聡里の先輩も大変だろうと思ってしまいました…。
「聡里、ちょっと落ち着いてよ」
「もういい、もう亜紀には何も話さないから」
たしなめる私の言葉など意に介さず「ガチャン」と激しい音と共に電話が切れてしまいました。

