●選挙ポスターの水増し請求、過去の事例は?
選挙ポスター代をめぐる紛争は、過去にも複数の事案があります。
ただし、私が調べた限りでは、選挙ポスター代の水増し請求で書類送検されたケースはあるものの、詐欺罪で起訴されて有罪判決が出たという事例は見つかりませんでした。
住民訴訟(民事・行政)という形で争われているものとしては、京都地裁平成13年(2001年)11月30日判決(ポスターの公費過払いで市が不当利得返還請求権を有すると認定)、大阪地裁令和3年(2021年)3月25日判決(条例上限内の請求として棄却)などがあります。
また、市への公費水増し請求が詐欺罪で起訴・有罪になった事例は、他の分野ではいくつかあります。(大阪地裁令和6年(2024年)1月16日判決・コールセンター業務委託費水増し事件など)
●示談も被害弁償も難しい
詐欺罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑」と重い罪です。否認するのであれば話は別ですが、弁護活動では、被害者から許しを得る「示談」も重要な選択肢になります。
しかし、今回の被害者は「市(地方公共団体)」であり、示談に応じるとは考えにくいです。
地方自治法では、市が権利の放棄や和解をするには原則として議会の議決が必要とされています(96条1項10号、12号参照)。たとえば市の担当者が個人の判断で「許す」と言える立場にありません。
したがって、基本的に示談は出来ないと考えた方が良いでしょう。
示談は出来なくても、「被害弁償」(受け取ったお金を返す)をすることも考えられます。
示談と被害弁償の違いは、示談の場合は被害者から「許し」を得るのに対し、被害弁償の場合にはお金だけは支払って被害は回復する、という点にあります。
被害弁償は量刑上の軽減要素になります。特に詐欺罪のような財産犯では、被害が弁償されているかどうかは大きな考慮要素といえます。
しかし、立花氏は現在、破産手続き中です。財産を自由に動かすことに制約があるため、被害弁償も容易ではないでしょう。
詐欺の成立要件の立証の難しさと、示談・被害弁償の困難さが重なる構造のなかで、今後事件がどのように動いていくのか注目されます。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

