お墓の前で言われた、「養子になりなさい」
ある日、姉妹から「お墓を探しに付き合って」と頼まれた。近くのお寺の自動式のお墓を見に行くと、姉妹は「三つください」と言った。
「おかしいな、と思って。いらないんだけどな、と思ってたんだけど」
三人で受付に並ぶと、担当者から「契約はそれぞれですか?」と聞かれた。両側を姉妹に挟まれた麻生さんが答えようとする前に、二人がこう言った。「私たちもうすぐ死んじゃうから、契約この人」。
そのとき、妹の方がクリスチャン・ディオールと書かれた大きなピンクのサングラスをゆっくり外した。
「『あなた面倒くさいからうちの養子になりなさい』と言われて。相手の人とかも『何をしてるのこの人たち』みたいな感じだし、僕も『あ、はい』と言っちゃったんですよ(笑)」 「役所の手続きなんか後でやればいいから、とりあえず苗字もう変えてそこに書いて」と言われ、その場で名前を書いた。天気の話だと思っていた言葉は、本気だった。麻生さんは養子になった。
大変なこともたくさんあったという。でも麻生さんはこう振り返る。
「姉妹が僕がいいなと思ったのは、明るかったということと、東京でいい時代を生き抜いてきた面白さみたいなものがあって。彼女たちじゃないと提供できないネタとか時間があったような気がします」
引き継がれた器で、誰かをもてなす
キッチンを案内してもらうと、棚には染め付けの器が並んでいた。姉妹が長年集めて使ってきたものを譲り受けたものだという。
「せっかく養子にしてもらって、自分たちが長年集めて使ってきたものだから、それをみんなと共有していくのはすごくいいなと思って」
料理も、器も、引き継がれていく。麻生さんの食卓を囲んだ人たちが、またそれぞれの誰かへと伝えていく。そういう連鎖が、この千駄ヶ谷の部屋を起点に広がっている。
文筆家としての仕事も、人の縁から生まれた。SNSに書いていた文章を見た友人に「文章を書く仕事をしてみたらいいんじゃないか」と勧められ、最初の著書『僕の献立』で本格的に書くようになった。「ギュッと」という言葉を使うレシピフォーマットに収まらない料理家が、普段の食卓をそのまま本にする。パートナーと構成を考えながら書き続けてきた。
今年執筆中の本は、猫のチョビの視点から麻生さんの人生を振り返るという試みだ。
「チョビの気持ちになって、僕のことを書くという、とっても危うい(笑)。自分の人生のいろんなポイントの中で、チョビに勝手に僕の本音を言わせてるみたいなところはあって」
語尾が「ニャ」になったら止めてほしい、と周囲に頼んでいるという。もう1冊も企画中で、ゴーサインが出ればすぐに書き始める。
お告げで導かれた部屋で、不良のおばあちゃんたちに養子にされ、引き継いだ器で人をもてなす。その食卓に人が集まり、料理が次の誰かへと受け継がれていく。麻生要一郎の物語は、「ひょんなこと」を重ねながら、まだ続いている。
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第65回・第66回(2月20日・27日配信) 麻生要一郎さん
料理家・文筆家
1977年茨城県水戸市生まれ。家庭的な味わいのお弁当やケータリングが評判になり、日々の食事を記録したInstagramでも多くのフォロワーを獲得。料理家として活躍する一方、自らの経験を綴ったエッセイ&レシピ『僕の献立 本日もお疲れ様でした』『僕のいたわり飯』『365 僕のたべもの日記』『僕が食べてきた思い出、忘れられない味 私的名店案内22』を刊行。近著に初の自伝&食エッセイ『酸いも、甘いも。あの人がいた食卓 1977-2025』がある。
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クックパッド株式会社 小竹 貴子
クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家
趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。
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この記事はクックパッドのポッドキャスト番組『ぼくらはみんな食べている』の配信内容を再編集した記事です。

