最終的な目標は子どもの自立。存分に練習してもらおう


「あちゃー♪」ではないのである。でも妹はお兄ちゃんと一緒だとよく食べた(提供:編集部 虫明)
崎谷
できれば一緒に食卓を囲むのがいいのかなと思っているのですが、離乳食の時間って、1日2回だったり、後期で3回食になっても4時間おきとかだったりして、親の食事の時間と合わないんですよね。それはどうしたらいいんでしょうか。
工藤
私は、できればなるべく親も一緒に食事をとってほしいと思っています。人は模倣しながら学ぶので、子どもは親がもぐもぐしているのを見て、口の動かし方を学んでいくんです。だから、支えがあれば座れるようになったら、離乳食を始める前から、食事の時間はハイチェアに座らせて一緒に食卓に並ぶことをおすすめします。離乳食は用意しておいて、子どもが食べ物に興味を持って、よだれが出るなど食べたそうにしていたら、最初のひとくちをあげてみる。そうすると、進みがスムーズです。
崎谷
今は、土日に6時半、10時半、14時半といった時間で食べていて、その時間に食事はできなくとも、目の前でバナナなど軽いものを食べるようにしています。それでもいいんでしょうか。
工藤
いいですね。ぜひ続けてください。その4時間ずつというのは、保育園での離乳食やミルクの時間に合わせていますか?
崎谷
はい、そうです。
工藤
私は、その4時間ずつのミルクの時間に合わせて離乳食をあげずに、親の食事の時間に合わせて食べさせるスタイルでいいと思っています。やっぱり、赤ちゃんも一人で食べるのってつまらないんですよ。私たちも「見てるからひとりでごはん食べなよ」と言われたら、食べづらいじゃないですか。
山口
こわいですよね(笑)。じゃあ、親も一緒に食べたほうがいいんですね。あとは遊び食べで悩んでいる親御さんも多いと思うのですが、それはどうしたらいいんでしょうか。
工藤
遊び食べは必要なステップなので、なるべくさせてあげたほうがいいんですよね。
崎谷
うちの子は、まだ親がスプーンで食べさせている段階なので、遊び食べはないのですが、友だちの子どもが食べ物をぶん投げている写真などを見て、「その時期がやってくるのか…」と戦々恐々としています(笑)。
工藤
やってくる、かもしれません。でもそうなったら、いっぱい触らせてあげてください。手づかみ食べをよくした子のほうが、偏食が少なく、バラエティに富んだ食材を食べられるようになる、という研究結果もあるんです。一人で食べられるようになるのも早い。
なぜかというと、手や顔についた食べ物を親がいちいち拭いて、触らせないようにしていると、子どもは食べ物は汚いもの、良くないものだと思ってしまうんですね。そうではなく、たくさん食べ物に触れて親しむ時間をつくってあげたほうがいいんです。もう、納豆とか食べさせたら髪の毛もぐちゃぐちゃになりますよ。うちの子は、オムツ1枚でお食事してました。それで、食べ終わったらそのままシャワーに入って、出かける準備をするんです(笑)。
崎谷
そんな技があるんですか。
工藤
ぐちゃぐちゃになるのは、その時期だけなんです。そのうちちゃんと食べられるようになります。だから、その時期は安心して失敗させてあげる。うまく食べられないのは当然なので、「お、今日もがんばって練習してるな」くらいの気持ちでいてください。まあ、後片付けやシャワー入れる時間で、親は遅刻しちゃったりするんですけどね…。


ぐちゃぐちゃになるのはもう仕方ないと諦めて、写真を撮っておけば10年後には宝物に(提供:編集部 ナカツジ)
山口
食べ物を投げたりする時期のハックとして、SNSで大きなプラスチックケースの中で食事をさせるというのを見たんですけど、それはどう思いますか?
工藤
「食事は、家族と一緒に食卓について楽しむもの」、という考え方から外れるので、私はおすすめしないですね。自分に当てはめても、大きな箱の中で一人で食べさせられるのは嫌じゃないですか?
山口
たしかにそうですね。じゃあ、その時期にぐちゃぐちゃになるのはもう仕方ない、と。
工藤
床にビニールシートを敷いたり、体を覆うエプロンを着せたりとある程度の工夫はできると思いますけど、投げたりする分にはもうしょうがないですね。ぐちゃぐちゃになったらもうシャワーです。
山口
親に心と時間の余裕がないと、なんとかしてシャワーに入れなくてもいいように、と考えてしまうんだろうな…。大変だろうなぁということだけは今から想像できます。
工藤
その気持ちもわかるんですよ。朝は時間がないですし、納豆が髪につくのはなるべく避けたいと私も思います。でも、ぐちゃぐちゃになっても自分の手で食べる経験を積んだほうが、将来的には一人で食べられる子になるんです。親の最終的な目標って、子どもの自立だと思うんですよ。そこに持って行くには、離乳食の時から安全性を確保した上で、失敗しながら何度も挑戦してもらったほうがいいんですよね。
苦い経験から「誰にも私のような思いをしてほしくない」と離乳食の本を書いた
山口
工藤先生も、お子さんが離乳食を食べなくて大変だったのでしょうか。
工藤
上の子の時は「毎日栄養満点の離乳食を作って食べさせないと」とガチガチに思っていたので、大変でしたね。ある日、娘が離乳食を全然食べなくて、投げたり吐き出したりして、周りも娘自身もものすごく汚れてしまいました。お風呂場に連れて行っても、ぐずって服も脱がせてくれなくて…。その時、自分の中の何かがぷつっと切れて「なんで食べないの!」とお尻を叩いてしまったんです。
山口
それはもう、反射的にですよね…。
工藤
いっぱいいっぱいだったんです。小児科医で、しかも大学院で栄養と子どもの発達について研究したのに、離乳食を食べさせることもできないなんて。ダメな母親だというレッテルを貼られたようで、みじめでした。誰もそんなこと言ってないんですよ。でも自分で自分を責めてしまって…あ、ダメだ、この時のことを思い出すと今でも泣けてきちゃう。それまで絶対に自分は虐待なんてしないと思っていたのに、意外と身近にそのリスクを感じて「これはまずい」と思いました。
その後、第二子をアメリカで産んだ時に、アメリカでは市販の離乳食が当たり前のように使われている実態を知りました。手間がかからないのはもちろん、栄養面や安全面からも市販品がいいと実感したのです。何より、買って食べさせることで心の余裕ができた。そこで、娘に当たってしまった私のような経験を、もう誰にもしてほしくないと思い『離乳食は作らなくてもいいんです。』を書いたんです。
山口
そうだったんですね…。最後に私も含め、これから離乳食を始める親御さんに何かメッセージはありますか?

工藤
離乳食が始まるのって、生後5〜6ヶ月くらいなんですけど、その頃の母親ってまだ出産のダメージがやっと回復してきたくらいの時期なんです。そこでお世話も離乳食づくりも完璧にやらなきゃと思うと、とてもつらくなってしまう。そのくらいの時期は、自分の体はまだ完璧に回復していないことを受け入れて、いろいろな人やものの力を借りていきましょう。その選択肢の一つとして、市販品を買うことも視野に入れてほしいですね。
山口
体がしんどいのに、作ったこともない離乳食を作るのって大変ですよね。これで合っているのかどうかもよくわからないし。その上食べてくれないと、追い打ちをかけられるような気持ちになるでしょうね。そういう時に、工藤先生のご著書を読んだら、きっと救われるような気持ちになると思います。手作りしてもいいし、買ってきてもいい。自分の性格や生活スタイルに合わせて柔軟に考えれば良いということがよくわかりました。今回は本当にありがとうございました!
