私が父の介護をしていたころ、今でも思い出すと不思議な気持ちになる出来事があります。父は認知症の初期で、普段は穏やかでしたが、ときどき「物を取られた」と思い込んでしまうことがありました。ある日、父の通帳をめぐって家族が大騒ぎになったことがあります。
突然始まった「通帳がない」という騒ぎ
ある日、父が突然「通帳がない! 誰かが盗った!」と大声で騒ぎ出しました。家の中を探しても見つからず、父は次第に不安そうな様子になり、私も胸の奥がざわつきました。
父は「絶対にここに置いた」と言って、同じ場所を何度も指さしました。しまいには「警察を呼ぶ」と言いだすほどでした。
私は父を落ち着かせながら家中を探しましたが、どこにも見当たりません。兄にも連絡し、一緒に探してもらいましたが、それでも見つからず、家族全員は半ばパニックのような状態になっていました。
思いがけない場所で見つかった通帳
そんな中、ふと冷蔵庫を開けた瞬間のことです。野菜室の奥に、見慣れた封筒のようなものが目に入りました。まさかと思いながら取り出してみると、そこには父の通帳が、きれいに袋に入れられたまま入っていたのです。
思わず「どうしてここに……」と声が出ました。父に見せると、父は真顔で「大事なものだから、冷やしておいた」と言いました。そのひと言を聞いた瞬間、私も兄も思わず力が抜けてしまいました。

