新築の自宅に招いた姉と甥の言動に違和感を抱いた結衣。出来事を振り返る中で、高校時代に初めて知った姉の存在や、その後築いてきた関係を思い出す。しかし、子どもが生まれてから少しずつ関係に変化が生じていたことに気づく。
消えない違和感と過去への回帰
姉たちが帰ったあと、私はリビングに座り込んでいた。
床には、少し裂けたキッチンマット。
その横で、蒼がミニカーを走らせている。
さっきの出来事は、もう気にしていない様子だ。子どもは切り替えが早い。
「……よかった」
蒼が元気そうなことに、ほっとする。
でも、私の胸の奥には、さっきの光景がずっと残っていた。
蒼を突き飛ばした蓮くん。それを軽く流した姉。
──「子どもなんてこんなもんでしょ」
香織の言葉が、何度も思い出される。
(昔は、こんなふうに思うことなんて、なかったのに……)
私はふと、遠い昔のことを思い出していた──
初めて知った姉と築いた関係
姉の存在を知ったのは、高校1年の春だった。
ある日の夕方。リビングでテレビを見ていると、母が言った。
「結衣、ちょっと話があるの」
いつもより少し真剣な声だった。
「なに?」
私は何気なく聞き返した。
すると母は少し迷うようにしてから言った。
「あなたには……お姉ちゃんがいるの」
「……え?」
意味が分からなかった。
「お姉ちゃん?」
私は思わず聞き返す。
「うん」
母は静かにうなずいた。
「香織っていうの」
頭の中が真っ白になる。
「どういうこと?」
私は困惑しながら聞いた。すると母は、ゆっくり話し始めた。
両親が離婚したこと。そのとき、姉は父の方に引き取られたこと。そして、私は母と一緒に暮らしてきたこと。
「……」
私は言葉を失った。
そんな話、今まで一度も聞いたことがなかった。
「どうして今まで言わなかったの?」
「ごめんね」
母は小さく言った。
「あなたが小さい頃は、混乱すると思って」
そう言われても、すぐには納得できない。
だって──
「急にお姉ちゃん、って言われても……」
実感なんて湧かない。
そのときだった。母が言った。
「もし結衣がよければ」
「……?」
「香織に会ってみる?」
私は少し考えた。
そして──
「会ってみたい」
気づけば、そう答えていた。
数週間後。私は初めて姉と会った。
カフェの窓際の席。そこに座っていた女性が、立ち上がる。
「……結衣?」
少し緊張した声だった。
「香織……さん?」
私はおそるおそる聞く。すると姉は笑った。
「“さん”は、いらないよ」
そして少し照れくさそうに言った。
「お姉ちゃんって呼んで」
それが、姉・香織との最初の会話だった。
最初は、ぎこちなかった。何を話していいのか分からない。
でも、会う回数を重ねるうちに、少しずつ距離が縮まっていった。
「結衣、これ好きそう」
「ほんとだ!かわいい」
一緒に買い物に行ったり。
「このカフェおすすめなんだよ」
「へえ、いい雰囲気だね」
ご飯を食べに行ったり。
気づけば、自然と連絡を取り合うようになっていた。
姉妹というより、年上の友達みたいな感覚だった。
大学に進学してからもその関係は続き、社会人になってからも、時々会っていた。
特に大きな喧嘩をすることもない。穏やかで、ちょうどいい距離感。そんな関係だった。

