夫が建築士であることを知った藤川から図面を見てほしいと頼まれ、違和感を覚えた真帆。その違和感の正体を探るように、幼稚園時代の出会いからこれまでの関係を振り返る。頼れる存在だった藤川の言動に、少しずつ見えてきた“引っかかり”とは。
頼れる存在だったはずのママ友
藤川さんに図面の相談を持ちかけられた帰り道。
私はゆっくり歩きながら、さっきの会話を思い返していた。
──「旦那さん、建築士でしょ?この図面ちょっと見てもらえない?」
軽い調子だった。
まるで、ちょっとした世間話みたいに。
でも、胸の奥に引っかかるものがある。
その違和感は、実は今に始まったことじゃなかった──
思い返せば、藤川さんと初めて出会ったのは、息子の悠真が幼稚園の年中だった頃だ。
春の入園説明会。まだ知り合いも少なくて、私は教室の端で静かに座っていた。
周りではすでに何人かのママたちが楽しそうに話している。
「はぁ……」
知らない人ばかりの空間は、どうしても緊張する。
そんなときだった。
「ねえ、ここ空いてる?」
明るい声がかかった。
顔を上げると、笑顔の女性が立っていた。
「え?あ、どうぞ」
「ありがとう!」
その人は隣に座ると、すぐに話しかけてきた。
「お子さん、どのクラス?」
「ひまわり組です」
「あ、うちも!」
ぱっと顔を輝かせる女性。
「じゃあ同じクラスだね。よかった〜」
そう言って笑ったのが、藤川さんだった。
少しずつ積み重なっていった違和感
「私、藤川美咲。息子は陽翔っていうの」
「石田真帆です。うちは悠真です」
それが、私たちの最初の会話だった。
藤川さんはとにかく人懐っこい人だった。
園庭でも、送り迎えでも、すぐに他の保護者と打ち解ける。
気づけば、自然とママたちの中心にいるようなタイプだ。
「真帆ちゃ〜ん!こっちこっち!」
送り迎えの時間になると、よく声をかけてくれる。
「このあと公園行くんだけど、悠真くんも来る?」
「え、いいの?」
「もちろん!」
そんなふうに誘ってくれることも多かった。
私はどちらかといえば、あまり自分から輪に入っていくタイプじゃない。
だから、藤川さんみたいな人がいてくれると本当に助かった。
「陽翔くんママってすごいよね」
ある日、別のママが感心したように言った。
「この前の親子イベントも仕切ってくれてたし」
「ほんとほんと。頼りになるよね」
周りのママたちも口々にうなずく。
私も同じ気持ちだった。
“頼もしいママ友”。
それが、当時の藤川さんの印象だった。
でも少しずつ、ほんの小さな違和感を感じることも増えていった。

