高校生の頃に妹・結衣と再会し、友人のように穏やかな関係を築いていた香織。社会人になってからも交流は続いていたが、お互いに子どもが生まれてから、少しずつ心境に変化が生まれる。そんな中、親戚の集まりでの出来事をきっかけに、香織の中に抑えきれない感情が芽生えていく。
知らなかった“妹”の存在
両親が離婚したとき、私はまだ2歳だった。当然、そのときの記憶はほとんど残っていない。気がついたときには、父と2人で暮らしていた。
母のことを思い出すことも、ほとんどない。ただ──
「香織はお父さんと暮らすことになる」
あとから父に聞いたその言葉だけが、ぼんやりとした事実として残っている。
それが、私にとっての“家族の形”だった。
高校3年生の春。
父から突然言われた言葉に、私は驚いた。
「香織、お前には妹がいる」
「……え?」
思わず聞き返した。
「妹?」
「結衣っていう」
父は静かに言った。
母が再婚したわけではない。私が母と別れたあと、母のもとで育った娘。
つまり──
「本当の妹だよ」
頭の中が、うまく整理できなかった。
「……今まで、なんで言わなかったの?」
そう聞くと、父は困ったように言った。
「お前を混乱させたくなかった」
その言葉に、納得したわけじゃない。
でも不思議と、嫌な気持ちはなかった。
むしろ──
「会ってみたい」
そんな気持ちの方が大きかった。
妹との穏やかな関係
それからしばらくして、私は初めて妹と会った。
カフェの窓際の席。
そこに座っていた女の子が、立ち上がる。
「……香織さん?」
少し緊張した顔だった。
その姿を見て、私は思った。
(かわいい)
小柄で、柔らかい雰囲気。
私とは全然違うタイプだった。
「“さん”は、いらないよ」
私は笑って言った。
「お姉ちゃんって呼んで」
その日から、私たちは時々会うようになった。
結衣は、どこか不思議な子だった。穏やかで、優しくて、聞き上手。私が話すと、いつも楽しそうに笑う。
「それでね!」
「うん!」
そんなやり取りをしていると、なんだか気持ちが軽くなる。
妹というより、年下の友達みたいだった。
大学に進学してからも、社会人になってからも、私たちはたまに会っていた。
特に大きな喧嘩もない、穏やかな関係。
でも、その関係が変わり始めたのは、子どもが生まれてからだった。
先に母親になったのは、私だった。
蓮が生まれたとき、結衣はすごく喜んでくれた。
「かわいい……」
そう言って、何度も抱っこしていた。その姿を見て、私は少し誇らしかった。

