比較される母としての自分
でも、結衣に蒼が生まれてから、何かが変わり始めた。
親戚の集まりでも、よく言われる。
「蒼くん、いい子だね」
「ちゃんと挨拶できるのね」
「結衣ちゃんの育て方がいいのね」
そんな言葉を聞くたび、胸の奥がざわついた。
ある年の正月。
親戚が集まる席でのことだった。
「蓮くん、これ」
叔母がお年玉を差し出す。
すると蓮は──
「ちょうだい!」
そう言って、袋を乱暴に引っ張った。
「あっ」
叔母が少し驚く。
「蓮」
私は軽く注意した。
「ちゃんと“ありがとう”って言いなさい」
でも蓮は気にしていない。袋を振って笑っている。
そのときだった。
「蓮くん」
結衣がやさしく言った。
「お年玉はね」
しゃがんで目線を合わせる。
「ありがとうって言ってからもらうと、もっと嬉しいと思うよ」
穏やかな声だった。責めているわけでもない。
でも親戚たちは、その様子を見て言った。
「結衣ちゃん、しっかりしてるわね」
「いいお母さんだね」
私は黙っていた。
その横で、蒼が叔母に向かって言った。
「ありがとう」
小さく頭を下げる。
それを見た親戚たちは、感心したように言う。
「偉いねえ」
「ちゃんと挨拶できるんだ」
「結衣ちゃん、育て方が上手ね」
その空気を、私ははっきり感じていた。
(まただ)
胸の奥がざわつく。
誰も私を責めているわけじゃない。
でもまるで、比べられているみたいだった。
(なんなの)
私は心の中でつぶやく。
(そんなに立派なの?)
蒼はいい子。結衣はいい母親。
そんな空気。
それじゃあ──
私は?
蓮は?
胸の奥に、黒い感情が広がっていく。
結衣は何も悪くない。分かっている。
でも──
親戚の視線も、空気も、言葉も。
全部が、私を追い詰めてくる気がした。
私はふと、結衣の方を見る。穏やかな顔で蒼を見ている。
その姿がなぜか、ひどく眩しく見えた。
そして同時に、胸の奥で、はっきりとした感情が形になる。
──悔しい。
──なんで、あの子ばっかり。
その瞬間、私は初めて妹に対して、はっきりとした嫉妬を抱いていた。
あとがき:見えなかった姉の本音
姉・香織の視点から描かれた第3話では、これまで見えなかった“感情の背景”が明らかになりました。何気ない親戚の言葉や子どもの振る舞いが、知らず知らずのうちに人を追い詰めてしまうことがあります。誰かと比べられる苦しさ、認められないもどかしさ──それは決して特別な感情ではありません。次回は再び結衣視点へ。すれ違いが深まっていく姉妹の関係に、どのような変化が訪れるのか、ぜひ続けてごらんください。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。
記事作成: tenkyu_writing
(配信元: ママリ)

