姉・香織に思いを伝えたものの、話し合いは決裂し関係は悪化。距離を置いたまま続く姉妹関係の中で、結衣が自分なりの答えを見つけていく。分かり合えない現実と向き合いながら、母として何を大切にするのかを選び取る物語の結末。
変わらない関係の中で
あの電話の後も、姉との関係は完全に途切れたわけではなかった。
親戚の集まり。年に何度かの家族のイベント。そういう場面では、自然と顔を合わせる。
でも、状況はほとんど変わらなかった。
「蓮、走らないで!」
誰かが言っても、蓮くんは止まらない。ドタドタと廊下を走り回り、ソファに飛び乗る。
そして時々、蒼に乱暴なことをする。
「やめて!」
蒼が言うと、
「うるさい!」
と押し返す。
そのたびに、私は心臓がきゅっと縮む。
けれど、
「蓮、ダメでしょ〜」
香織の注意は、いつも軽かった。本気で叱る様子はない。そして、私と目が合うと、どこか挑むような視線を向けることもあった。
(……まただ)
私は何度も思った。でも、もう前のように言葉にすることはなかった。
「分かり合う」ことを手放す
代わりに、私は考えるようになっていた。
香織はどういう人なのか。自分はどうしたいのか。
そして──蒼にとって、何が一番いいのか。
母の言葉も思い出す。
──「子育てってね、視野が狭くなることもあるのよ」
拓也さんの言葉も。
──「蓮のことになると、ムキになっちゃうんだ」
香織なりに、一生懸命なのかもしれない──そう思うこともあった。
でも──それでも、蒼が傷つくのは、嫌だった。
私は自分の子育てを大事にしたい。
蒼に「人に優しくしようね」と教えるなら、私自身も、その姿を見せたい。
そのためには、無理をしないことも必要なのかもしれない。
ある日、ふと気づいた。
私はもう、香織に「分かってほしい」と思っていなかった。
代わりに思うようになっていた。
(私たちは、違うんだ)
子育ての考え方も、大事にしているものも、きっと違う。
だから、無理に同じ方向を向こうとしなくてもいい。
そんなふうに思い始めていた。

