それぞれの場所で生きていく
それから数か月後。香織から突然メッセージが届いた。
《引っ越すことになった》
私は驚いた。
《え?》
すぐに返信する。すると、すぐに返事が来た。
《蓮がさ》
《幼稚園でいじめられてたみたいで》
私は画面を見つめた。
胸の奥が、少しざわつく。
《だから環境変えようと思って》
《他の市に引っ越す》
短い文章だった。
私は少し考えてから、メッセージを打った。
《そうなんだ》
《大変だったね》
そして、少し迷ってから続ける。
《新しい場所では、うまくいくといいね》
《頑張ってね》
送信ボタンを押す。
しばらくして既読がついた。
《うん》
それだけの返信だった。
それから数か月。香織からは、たまに連絡が来る。
「引っ越し大変だった」
「蓮が新しい友達できた」
そんな近況報告。私は普通に返事をする。
でも、会う機会は、ほとんどなくなった。
距離ができた。物理的にも、そして、心の上でも。
時々、思うことがある。
もし、もっと違う形で向き合えていたら。もし、うまく分かり合えていたら。
私たちは、普通の姉妹のように過ごせていたのかもしれない。
少しだけ、寂しい気持ちになる。
でも、リビングで蒼が笑っているのを見て思う。
(これでよかったんだ)
無理に関係を続けて、心をすり減らすより、少し離れた場所で、それぞれの人生を歩く。
その方が、きっと穏やかに生きられる。
蒼が私の袖を引っ張った。
「おかあさん!」
「なに?」
「いっしょにあそぼ!」
私は笑ってうなずく。
「いいよ」
窓から、柔らかな光が差し込んでいた。私はその光の中で、蒼の手を握った。
少しの寂しさと、それでも確かな安心を胸に抱きながら。
あとがき:距離という選択
分かり合えない相手と、どう向き合うか。関係を続けることだけが正解ではないと、この物語は示しています。結衣は「理解されること」を手放し、「守るべきもの」を選びました。それは決して冷たい選択ではなく、自分と家族を大切にするための決断です。近くにいることだけが、良い関係とは限らない。少し離れた場所で、それぞれが穏やかに生きていく──そんな関係の形もまた、一つの答えなのかもしれません。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています。
記事作成: tenkyu_writing
(配信元: ママリ)

