夫との相談の末に藤川さんの依頼を断った真帆。しかしそれ以降、PTA内で距離を置かれるようになる。さらに陰口を言われていることを知り、動揺を隠せない。追い打ちをかけるように、息子・悠真の友人関係にも変化が生じ、問題は大人同士だけでは済まなくなっていく。
広がる違和感と陰口
藤川さんのお願いを断ってから、数日が経った。
最初は、何も変わらないと思っていた。
けれど──
「……あれ?」
PTAの集まりで、私は小さな違和感を覚えるようになった。
いつもなら、藤川さんが中心になって話を進めていた。
「じゃあこの担当、誰やる?」
「ここはこうした方がいいんじゃない?」
そんなふうに、周りに声をかけながらまとめていく。
でも最近は──
私にだけ、ほとんど話を振ってこない。
「この資料、どうする?」
誰かが聞くと、藤川さんはちらっと私を見てから言う。
「どうしようね」
そのまま別の人と話し始める。
まるで、私がそこにいないかのように。
「……」
気のせいかな?
そう思おうとした。
でも、やっぱりどこか空気が違う。
そんなある日のことだった。
会議が終わり、片付けをしていると、同じPTAのママが小声で話しかけてきた。
「ねえ、石田さん」
「はい?」
少し言いづらそうな顔をしている。
「大丈夫?」
「え?」
「最近さ……」
その人は周りをちらっと見てから言った。
「藤川さん、石田さんのこと、ちょっと悪く言ってるみたいで」
胸が、どきっとした。
「え……?」
「なんかさ」
そのママは困ったように続ける。
「『旦那が建築士だからって偉そう』とか」
私は思わず固まった。
「あと、『ちょっと図面見てほしいって頼んだだけなのに断られた』って」
「……」
「愚痴っぽく言ってて、なんとなく雰囲気もぎこちないから大丈夫かなって」
言葉が出なかった。
そんなふうに言われていたなんて。
「ごめんね、変なこと言って」
そのママは申し訳なさそうに言った。
「でも、石田さんは悪くないと思うよ」
「……ありがとうございます」
私はなんとか笑顔を作った。
でも、胸の奥がじんわり痛んでいた。
──偉そう。
そんなつもり、全然なかったのに。
子どもに及ぶ影響
家に帰ってからも、その言葉が頭から離れなかった。
ため息をつきながら夕飯の準備をしていると、悠真が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
でも、いつもより元気がない。
ランドセルを置くと、そのまま椅子に座り込んだ。
「どうしたの?」
私が聞くと、悠真は少し迷うような顔をした。
「……ねえ、お母さん」
「うん?」
「陽翔くんがさ」
その名前を聞いて、私は思わず手を止めた。
悠真がぽつりと言う。
「最近ね、僕と仲良くしない方がいいって言われたんだって」
「……え?」
耳を疑った。
「誰に?」
「お母さんに」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「それでね」
悠真は困った顔をして続けた。
「仲良くできないって言われた。なんか、前みたいに話してくれなくなったの」
声が小さくなる。
「今日もさ、休み時間に話しかけたら……」
悠真は目を伏せた。
「ごめんって言われた」
私は何も言えなかった。
藤川さんが、陽翔くんに言ったんだろうか。
──「仲良くしない方がいい」
その言葉が頭の中で響く。
大人同士の問題だったはずなのに、それが子どもたちにまで影響しているなんて。
「……悠真」
私はそっと声をかけた。
「陽翔くん、何か理由言ってた?」
悠真は首を横に振る。
「分かんない」
そして、小さく言った。
「僕、何かしたのかな……?」
その言葉に、胸が痛くなった。
「そんなことないよ」
私は急いで言った。
「悠真は何も悪くない」
でも、心の中では分かっていた。
原因は親の問題だって。

