身近な人がうつ病になったとき、「励ます」つもりの言葉がかえって負担になることもあります。正しい声かけや接し方を知ることが、回復への大きな支えになります。どうやって接したらよいのか、五反田ストレスケアクリニックの片山先生に詳しく聞きました。
※2025年10月取材。
≫【一覧でわかる】うつ病患者へのNGな言葉
監修医師:
片山 渚(五反田ストレスケアクリニック)
2017年4月東京慈恵会医科大学附属病院初期臨床研修医。2019年4月同大学附属病院精神科後期研修医。同大学附属柏病院、光生会平川病院医員、東京慈恵会医科大学附属病院精神科助教、心癒会しのだの森ホスピタル医員などを経て、2025年6月五反田ストレスケアクリニック開設。精神保健指定医、日本医師会認定産業医、産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)、健康経営アドバイザー。
なぜ、うつ病の患者に「頑張ろう」はいけないのか?
編集部
なぜ『頑張ろう』という言葉が、うつ病の人にはよくないのですか?
片山先生
かえって相手を追い詰めてしまう場合があるからです。 うつ病の人は自分を責めたり、『頑張れない自分』に強い罪悪感や絶望感を抱えていたりするケースが少なくありません。罪悪感を抱えている状態のときに『頑張って』と声をかけられると、『これ以上どう頑張ればよいの?』と感じてしまう人もいます。
編集部
『頑張ろう』という言葉で、さらに追い詰められたと感じるのですか?
片山先生
はい、うつ病の人はもともと「自分には価値がない」「周囲に迷惑をかけている」といった自己否定的な考えを抱きやすい傾向にあります。そのため、励ましのつもりでかけた言葉が、自己否定的な思いをさらに強化してしまう場合もあるのです。
編集部
励ましの言葉が、無価値感などを強める要因になることもあるのですね。
片山先生
その通りです。うつ病は「心の弱さ」や「やる気の問題」ではありません。脳の働きが低下し、意欲や感情を調整する機能が乱れている状態です。努力や気合でどうにかなるものではなく、治療と休養が必要な病気であるということを、周囲の人も理解する必要があります。
編集部
「頑張って」という言葉が症状を悪化させることもあるのですか?
片山先生
「頑張って」という言葉をかけられると、相手の期待に応えられない自分を責めてしまい、かえって症状を悪化させることがあります。特に「自分ではどうにもできない」「友人や家族に負担をかけている」といった思いが強いときに励まされると、より孤立感が深まり、自分を傷つけるような考えにつながる恐れもあるようです。
編集部
それでは、何も言わないほうがよいのでしょうか?
片山先生
沈黙が支えになることもありますが、全く何も言わないと相手を孤独にしてしまう場合もあります。大切なのは、「ここにいるよ」「一人ではないよ」と存在を伝えることです。社会的な支援を受けられる人ほど希死念慮(死にたいと願う気持ち)が軽減されるという報告もあり、温かいつながりは回復の力になります。
「頑張ろう」の代わりにどんな言葉をかける?
編集部
どんな言葉がうつ病の人を支えるのですか?
片山先生
「大変だったね」「つらかったね」といった言葉で、まずは相手の気持ちを受け止めることが大切です。解決策を提示するよりも「あなたの気持ちを理解したい」という姿勢を示すほうが支えになります。このような共感の言葉や態度は相手の安心感を高め、快方へ向かうきっかけにもなります。
編集部
「自分に何かできることある?」と聞くのはどうですか?
片山先生
場合によっては、「気を使わせてしまう」と相手が負担に感じたり、返答に窮したりすることもあるかもしれません。それよりも、「食事は済んだ?」「少し散歩しようか」など、具体的に提案をすると相手も答えやすく、安心感が生まれます。こうした働きかけは、医学的に「積極的カウンセリングスタイル」と呼ばれています。
編集部
励ましではなく“寄り添い”が大切ということですね。
片山先生
はい。うつ病の人には、「頑張らなくても大丈夫」というメッセージが何よりも大切です。常に自己否定的な考えに陥りやすく「何かしなければ」「周囲に迷惑をかけている」と自分を追い込みがちなため、「できることだけでいい」「あなたはそのままで大丈夫」と伝えることが、回復への第一歩につながります。
編集部
会話が途切れて沈黙が続くときは、どう対応すればよいですか?
片山先生
無理に話をさせようとしなくても問題ありません。静かにそばにいるだけで「一人じゃない」というメッセージは伝わり、相手にとっては十分な支えになります。言葉を交わさずとも、寄り添う気持ちが伝わればそれだけで大きな力になり得ます。

