落ち込む秋穂に、元教諭の母が語ったのは「先生という呪い」の実体験だった。美紀が欲しかったのは称賛ではなく、不器用な母としての共感。秋穂は自分の過ちに気づき、今は何も言わずに見守る決意をする。
母に親友との間に起きたことを相談
美紀との関係が完全に断絶してしまったような喪失感の中で、私は実家の居間で溜息をついていました。
「……どうしたの、そんな暗い顔して。せっかくの帰省なのに」
そう言って、母が隣に座りました。私の母は、20年以上勤め上げた元幼稚園教諭です。私は意を決して、美紀との間に起きた一連の出来事をすべて話しました。
嘘をつかれたこと、誠さんの無神経な発言、そして私の励ましが裏目に出たこと。母は静かに温かいお茶を淹れながら、遠くを見るような目で語り始めました。
親友が本当に求めていた言葉とは…
「……そうなのね。美紀ちゃん、苦しかったのね。秋穂、お母さんもね、現役のころは近所の人に仕事を知られたくなかったわ。スーパーであなたがぐずって泣き喚いた時、『あら、先生なのに大変ね』って見知らぬ人に嫌味を言われたこともあるのよ」
「お母さんも……?」
「幼稚園教諭というだけで、育児が完璧で、常に穏やかで、どんな子どもも魔法のように手懐けられる……周囲は勝手にそんな理想を押し付けてくる。それは経験した人にしか分からない『呪い』みたいなものなの。自分の子ができないことがあると、まるで自分の職業適性まで否定されたような気分になる。美紀ちゃんは今、その呪いの真っ只中にいるのよ」
母の言葉を聞いて、私は自分の過ちに気づきました。
「私……彼女に『立派だ』とか『尊敬する』って言っちゃった。それって……」
「そうね。彼女は『先生』という鎧を脱いで、ただの『一人の疲れ果てた母親』として、あなたに弱音を吐きたかったのかもしれない。でも、あなたは彼女にまた『立派な先生』という重い鎧を着せ直してしまったのよ。彼女が欲しかったのは、称賛じゃなくて、『大変だよね、わかるよ』っていう共感だったのね」
私はハッとしました。私は彼女を「親友」だと言いながら、彼女の職業というフィルターを通してしか見ていなかった。

