秋乃の横暴さに耐えかね、コーチに相談しにいった春子。しかし、コーチの返答はどうもたよりなくて…。
「女王」の存在に怯えるコーチ
翌週、練習前にコーチに相談を持ちかけた。
「来期からの送迎の件なのですが…。高学年の子どもたちも体力がありますし、自転車で通うことにしませんか? 保護者への負担がおもすぎると、入団を希望する人もへってしまうのではないかと思って…」
コーチは私の言葉を聞くと、あからさまに視線をおよがせました。
「…以前、うちのチームで交通事故があったんですよ。自転車で通っていた子が、交差点でトラックと接触して…。それ以来、"保護者による車送迎"が絶対条件になったんです。こればかりは…私としても保護者会の方針をムシするわけには…」
コーチの視線は、他のママたちを指揮している、秋乃さんの背中を追っている。彼もまた、秋乃さんのきげんを損ねることをおそれているのだと、はっきり分かった。
指導者としての信念よりも、保護者会の実権を握る彼女との、「円満な関係」を優先している。その姿を見て、私の中で何かがぷつりと切れる音がした。
ムリなスケジュールになやまされる日々
結局、私は「5年生以下・全送迎担当」として、保護者会の名簿に記載されてしまった。
週末が近づくたび、動悸がはげしくなった。金曜日の夜は、翌朝のムリなスケジュールをシミュレーションしては、ひや汗をかいて飛び起きる日々…。
「お母さん…最近、元気ないね」
桃太が心配そうに聞いてくるたび、私は「そんなことないよ、大丈夫」と、力なくほほえむのがせいいっぱいだった。
しかし、そんなムリは長つづきするはずもなく、ほどなくして体は悲鳴をあげた。
ある土曜日の朝。目覚めると、頭がわれるような痛みと、経験したことのないほどの悪寒におそわれた。体温計をワキにはさむと、表示されたのは「39.2度」という数字。

