体調不良で少年野球の送迎に行けなくなってしまった、春子。そんな彼女へ、秋乃から連絡が入り…。
女王からの「お叱り」
ふるえる手で、通話ボタンを押した。
「あんた、何してるのよ!」
頭がわれそうになるような叫び声の主は、案の定「秋乃」だった。熱で意識が朦朧(もうろう)とする中、せめて礼儀正しく病状を伝えようとした。
「……申しわけありません、高熱が出てしまい、どうしても車が出せなくて……」
「ふざけないでよ! 今日がどんな日か分かってるの? となり町のチームとの大事な練習試合なのよ! 送迎担当のあなたが来ないせいで…今、グラウンドでどれだけの子どもたちが立ち往生してると思ってるの!」
「すみません…でも、本当にうごけなくて……送迎を代わっていただけないでしょうか」
「知らないわよ!自己管理不足でしょ!専業主婦のくせに…役割も果たせないなんて、本当に無能ね。チームのお荷物だわ…やる気がないなら、今すぐ辞めなさいよ!桃太くんだって、親がこれじゃ先が思いやられるわね!」
罵詈雑言の嵐に、言い返す言葉もうしない、涙がこぼれた。熱でぼんやりした頭に、彼女の冷酷な声がつき刺さる。ところが、次の瞬間、私の手からスマホがひったくられた。
「お母さんを、わるく言わないで!」
桃太の声でした。私のヒザ元で、彼が電話に向かって叫んでいました。
ちいさなヒーロー、立ち向かう
「秋乃おばちゃん、聞こえてる!? お母さんは昨日だって、みんなのためにルート確認して、夜おそくまで準備してたんだ。それを、お荷物だなんて……そんなこと言うおばちゃんの方が最低だ!」
「は…はあ?桃太くん?だれに向かってそんな口……」
「チームの仲間なのに…病気の人をいたわるのが、あたり前なんじゃないの? ぼくは野球が大好きだけど…お母さんをいじめるような人がいるチームなんてやめてやる! お母さんをくるしめるくらいなら、野球なんてやらなくていい!」
桃太は一方的に通話を切ると、私のスマホをフトンの上に投げ出した。そして、私にしがみついて言いました。
「お母さん…もういいよ。ぼく、気づいてたよ。お母さんが秋乃おばちゃんにムリやり、いろんなことをやらされてるの。ぼくのせいで、お母さんが病気になっちゃうのはイヤだよ。もう、ムリしなくていいから……」

